単純だったらいいのに
ラーシャはニアが持って来てくれた自分の鞄を背負うと医務室から出て行く。
ずっとフラウの話が頭の中をぐるぐる回っていた。
「ルーキスを殺す覚悟、か…」
正直、自分の夢がルーキスを殺してしまうかもしれないだなんて思いもしなかった。ただ、ルーキスを乗りこなせるようになればいいと思っていた。
ルーキスの気持ちも考えたことが無かったように思う。
「ルーキスのトラウマ…」
竜に過去の事を聞くのは暗黙の了解で禁止になっていた。
竜は長い寿命の中で何人もの人間と契約をする者もいる。その中には悲劇的な別れをする者もいる。
それをわざわざ思い出させるのは酷な事だと教えられて来た。だから、ラーシャもルーキスに何故戦うのを恐れるのか聞けなかった。
昇降口を出て空を見上げると、ラーシャの心を映し出すかのような曇天だった。
「ラーシャ!」
不意に声をかけられ声の方を向くと、そこにはソルとベルナデッタ、ルーキスがいた。
「待っててくれたの?」
「おう!ニアは迎えが来て、セルジュは今日は食事の当番だから帰ったけどな」
ルーキスはラーシャの肩の上に乗る。
【話長かったな?なんだって?】
「うーん…まぁ、いろいろ?」
ラーシャは誤魔化して笑うとソルを引き連れて家路に着く。
途中から飽きたのか、ベルナデッタとルーキスは空に舞い上がると追いかけっこを始めた。
ラーシャとソルはそれを見上げながら歩く。
「で?」
「ん?」
「…何言われたんだ?先生に」
「なんで?」
「目が真っ赤」
「うっ…」
「多分、ルーキスも気づいてると思うぞ…てか、隠す気あったのか?」
「あったよ!涙一生懸命拭いたし!」
ラーシャはため息をつくとフラウに言われた事を話た。
話を聞いた後、ソルは唸って頭を掻く。
「そっか…。それは、辛いな…」
「うん、でも、先生の言う事は正論かなって思う」
「…ルーキスを死なせたくないよなぁ」
「…うん」
「諦めるのか?」
「…」
ラーシャは黙りこんで楽しそうに空を飛んでいるルーキスを見つめた。
「どうしよう…。ルーキスと相談、かな」
「戦えない理由聞くのか?」
「わかんない。聞いちゃダメだっておばあちゃん達から言われてるしなぁ」
「でも、それじゃあ話し合いにならないじゃんか」
「そうだよね」
暗い顔をするラーシャの背中を叩いた。
「いっ…!」
痛みで目を丸くするラーシャにソルは悪戯っぽく笑う。
「何、暗い顔してるんだよ、らしくないな。…まぁ、確かにトラウマとかあるんなら蒸し返して欲しくないかもしれないよな。ベルナデッタなんか、よく昔の武勇伝を聞かせてくるよ。…ルーキスもベルナデッタくらい単純だといいんだけどな」
「そんなこと言ってるとベルナデッタに怒られるよ」
【もう既に怒っておる。全く貴様くらいだぞ?余を単純だとのたまう阿呆は】
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!わかったから!謝るから頭に爪立てんな!馬鹿!!」
ソルの頭に舞い降りたベルナデッタは痛がるソルに構わず、頭皮に爪を立てる。
「わぁ…頭が裂けちゃいそう」
【ベルナデッタ、凶暴だよな】
【ルーキスよ、其方のその硬い鱗を貫いてやろうか?】
ルーキスはススッとラーシャの背中に隠れる。
「まぁまぁ…ベルナデッタ落ち着いて。ソルの頭が砕けちゃうから…」
ラーシャはなんとかソルからベルナデッタを引き剥がす事に成功すると、ちょうど分かれ道に着いた。
「じゃあ、俺こっちだから…」
「うん、また明日ね」
「おう」
ラーシャはソルと別れて歩き始めてすぐに振り返る。
「ありがとう!ソル」
ソルはニッと手を振ると走り去って行く。
「さて、帰ろっか」
【あぁ】
ラーシャはルーキスと共に家路に着く。
静かに覚悟を決めて。




