勧誘
「やぁ、フォルテ」
何事も無かったようにリズベルトが機嫌良く、挨拶するとフォルテはペコっと頭を下げた。
「そろそろお時間です。お迎えに上がりました」
「うん。ありがとう」
リズベルトはそう言って立ち上がり、女神像に一礼をした。
もうすぐ、貴女を助ける事が出来る。
だから、待ってて…。
「お待たせ、行こうか…」
顔上げて、フォルテの方に振り返ると驚いたようにリズベルトは目を丸くした。
毎日、ここに迎えに来るフォルテは女神像に興味が無いようで、全く見る事がないのに今日はジッと女神像を見つめていた。
珍しい事があるもんだ、とリズベルトは心の中でほくそ笑む。
今ならば勧誘も容易そうだ。
「珍しいね、フォルテが女神様を熱心に見つめるだなんて。興味湧いた?」
リズベルトに声を掛けられ、フォルテはハッと我に返る。
「いえ、そう言うわけではありません」
フォルテはちょっとバツが悪そうな顔をして、首を横に振った。
「ただ、見たことある顔をだと思いまして…」
「ああ」
リズベルトは納得した様に頷く。
「女神様はあらゆる人の側に常に居られるからね。もしかしたら、フォルテは女神様の姿を見たことあるのかもしれないね」
「そんな、まさか…」
フォルテは顔を引き攣らせた。
正直言って、宗教や神になど興味は全く無い。
神にどんなに願っても助けてなどくれない。
結局、自分を救うのは自分しかいないのだ。
それをフォルテは身を持ってそれをちゃんとわかっている。
【フォルテすごいねぇ。女神様に会ったことあるんだ!】
心の内を知らないラソが無邪気な声でそう言って尊敬の眼差しで見つめてくるので、フォルテは思わず苦笑する、
「会ったことねぇよ」
【なぁんだ…】
ラソはがっかりして肩を落とすので、その頭をフォルテは慰めるように撫でた。
リズベルトには、ラソが何を話しているのか全くわからないが、表情だけで何を言っているのか何となくわかり、クスッと笑う。
「大丈夫。信じていればいつか会えるからね」
その言葉にラソは、パッと表情を明るくした。
「ラソは素直で本当に可愛いねぇ…。フォルテは相変わらず信じてくれないの?入信大歓迎なのに」
「まぁ…そうですね。今は間に合ってます」
フォルテはさっさとこの話を切り上げようと、扉を開いてリズベルトに外へ出るように促す。
それでもリズベルトは、そこから動こうとしないでフォルテを見つめて首を傾げる。
「そう?でも君も救済を必要としてるんじゃない?…家族の君に対する態度を見てればわかるよ」
フォルテは一瞬だけ、身体を強張らせてリズベルトに向き直った。




