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竜使いのラーシャ  作者: 紅月
異変と激動と動き出す運命
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帰還箱

 扉の方を見ると、そこにはゼンとその後ろに彼の婚約者でありラーシャは達の先輩であるセイラの姿もあった。


「ゼン兄!?」


 ラーシャは二人の姿に驚く。

 ゼンもセイラも今日は準夜勤で、パーティーには間に合えば来ると言っていた。

 だが、来るのが早く過ぎる。本来ならばこの時間はまだ勤務中のはずだ。


 何か、あったのだろうか…。


 ラーシャの不安を肯定するかのように、ゼンの顔色は良くない。

 セイラも心配そうな顔で、ゼンに寄り添っている。

 それでも、ラーシャは気の所為だと自分に言い聞かせて努めて笑顔を浮かべてゼンの元に向かう。


「どうしたの?まだ、勤務時間中でしょ?もしかしてセルジュに会いたくなっ「ラーシャ、落ち着いて聞いてくれ」


 言葉を遮ってゼンはそう言うと、ラーシャの肩を強く掴んだ。

 その手は震えていて、ラーシャは不安を一層強めた。


【ゼン、ラーシャを離してやってくれ。怖がっている】


 ラーシャを気遣ってルーキスがゼンとの間に入って助け舟を出す。

 すると、ゼンは深呼吸をしてゆっくり手を離した。


「…悪い」

【ゼン、気持ちは分かるけど、あんたも落ち着きなさいって】


 アイシャに諭され、ゼンは唇を噛むと頷いた。


「わかってる。…ラーシャ、今さっき、駐屯所に第零騎士団の騎士が来たんだ」

「…第零騎士団…が、なんで…?」


 ドクンドクン、と鼓動が早くなるのを感じた。

 さっきから、嫌な予感がして頭がクラクラするが、そんなラーシャに気づく事なく、ゼンは話を進める。


「女王陛下からの使いだ。…これを、俺たちにって」


 そう言って震える手でゼンが胸ポケットから 出したのは、小さな銀色の箱。

 その蓋の部分には水の魔石が、そして側面には守護の魔石が嵌め込まれていた。

 パーティーの参加者たちがいつの間にか、ラーシャ達を囲いその箱を見て首を傾げる。

 みんな口々に“何の箱だ?”“綺麗な箱ね”と感想を述べるが、それが何なのかは全くわかっていない。

 唯一、それが何かを知っているラーシャとリライはその箱を見ただけで顔を色を変えた。


「帰還箱か…」


 ポツリとリライが呟いた。


 帰還箱とは、竜使いに任命されると同時に女王リーツェから賜る箱である。

 任務中、竜共々死を回避するのが困難だと判断した際、遺品や遺書をその中に入れて川や海に流すのだ。

 そうすると、帰還箱は水の魔石が記憶した場所…つまり、竜の国に流れ着く。

 だが、この方法は確実とは言えず、必ず海や川の近くで死ぬとは限らないし、運良く流せたとしても多くの場合は他国の者に発見され回収されたり、海に住む魔物に餌と間違え食べられてしまう為、国に辿り着いた時点で奇跡と言えよう。


 そして、この箱がここに今あると言うことは、つまり…。

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