終焉に救いを求める者
「!?」
思いも寄らない言葉にセルジュは驚いて、身体を離すとロベリエを凝視した。
ロベリエはそんなセルジュを見て楽しそうに笑っている。
ラーシャからの手紙で、最近竜の国で流行っている“種を蒔く者”という宗教団体が少し嫌な感じがすると言っていたのを思い出す。
思想も結構過激だったはずだ。
それに、まだごく僅かだがスノウコルドでも最近信者が現れ始めたとルシェが言っていた。
「その顔。…ふふ、“種を蒔く者”を知っているのね」
「あ、ああ…一応」
歯切れの悪いセルジュの答えに、ロベリエは納得したように頷く。
「教えも知ってるのね?」
入信したと言っているロベリエに自分が、聞き及んでいる教えの事を言ってもいいのかと、思案するが結局諦めて素直に答えることにした。
「世界の終わりに救いがあるっていう話だよな?」
「やっぱり、みんなその辺のことは知ってるのね。そこの部分って結構強烈だもんね」
「…ロベリエも世界の終わりを望んでるのか?」
「うーん、終わりを望むってわけじゃ無いけど、救いは求めてるかな」
「終わりに救いがあるのか?」
つい思っていた事がポロッと出てしまい、慌ててセルジュは口を噤む。
ロベリエは特に気にした風もなく笑顔のままだ。
「もちろん。あるから入信したんじゃない。ねぇ、私のおじいちゃんは、ずっと鬼神を恨み続けてるって話、覚えてる?」
その言葉にセルジュはすぐに頷いた。
「ああ、初めて会った頃の話に言ってたよな」
「うん。でね、その恨みはきっと一生晴らせないと思うのよ。それこそ、死ぬまでね」
ロベリエはそう言って目を閉じた。
「世界が滅んで何もかも無くなったら、おじいちゃんの過去のトラウマも恨みも憎しみも全て綺麗に無くなる。そうなったら、きっとおじいちゃんは今以上に幸せになれると思うのよね。私もそう」
セルジュが困惑していると、ロベリエは苦笑して話を続ける。
「どんなに努力を重ねても、報われる事がないこんな理不尽な世界でも、いつか来る世界の終焉という救いがあるんだって思えれば、前に進める気がする」
そう言って目を細めるロベリエに、セルジュは言いようのない不安を感じて、息を呑んだ。
本当に世界の終わりに救いを見出しているのだろうか?
大切な人たちが生きるこの世界が滅ぶだなんて、考えただけで恐ろしい。
「ね?セルジュも今度一緒に会合に顔出してみない?きっと楽になるよ?」
ロベリエがそう言って、冷え切ったセルジュの手を掴む。
その冷たさに、一瞬ゾッとさせながらセルジュは口を開いた。




