ラーシャの為に
ラーシャはルーキスの出鱈目な動きに耐えるだけで精一杯だ。激しい動きに息をするのもやっと。
首にしがみつく手も痺れてきていつ手を離してしまってもおかしくない。
ルーキスが試合で相手に追い詰められたり囲まれたりするとパニックを起こして暴れる事はあるがここまで酷いものは初めてだった。
何が悪い?何がいけなかった?何がここまでルーキスを追い詰めた?
息が苦しい中で必死に考えても答えが出ない。
「ラーシャ!!」
不意に名前を呼ばれて何とか声の方を振り返ればニアとエルがいた。
助けに来てくれたのだ。お礼が言いたいが今は声を出す余裕もない。
そんなラーシャの状況にニアは辛さそうな顔をしたがすぐにキッと表情を引き締める。
「エル、何とかルーキスを止めることは出来ないのですか?」
【やってみますが…結構骨が折れますよ?無理して止めようとすればニア様はもちろんラーシャは必ず怪我をしてしまうでしょうしねぇ】
エルはそう言いながらも、何とかしようとルーキスに近づこうとしては危険を感じて後退を繰り返している。
「これでは埒が開きませんわね…!」
【そうですねえ…ラーシャを潰してよければ無理やり後ろから羽交い締めにして止めますけど】
「絶対ダメですわ!!」
近づけないのではどうにも出来ない、とニアは唇を噛み締めた。
「ニア、どうだ!?」
「セルジュ!全然近づけませんわ!あんな激しく動いてたらラーシャの身がもたないでしょうし…どうすれば…」
応援に行きてくれたセルジュにニアが途方に暮れて言う。
「ニクス、何とか出来るか?」
【光が強すぎて難しいかな。…影があれば】
セルジュは少し考えると頷いた。
「なら、影を作ればいい」
【というと?】
「エル!ちょっと手伝って欲しいんだ!」
【はいはい、何なりとお申し付けください!エルに出来ることなら何でも致しますよ!】
「ルーキスの上をずっと飛んでて欲しいんだ!太陽から隠れるように!!」
【なるほど、エルが陽射しを塞いで影を作ればいいのですね!】
エルが明るい声で言ってすぐ【ですが…】と声を低くした。
【ルーキスのあの動きに合わせるとエルの背に乗るニア様の負担が…】
「構いませんわ」
ニアが間髪入れずに答える。
「ラーシャの為ですもの。…さあ、エル?私たちの本気見せて差し上げましょう?」
【…!えぇ、ええ!もちろん!!さぁ、しっかり捕まってくださいね!行きますよぉぉぉぉぉぉ!!】
パァァァァッと明るい笑顔でエルは心底楽しそうに声を上げてルーキスの方へと飛んで行く。
二人を見送った後、ニクスが口を開いた。
【いいのかい?】
「何が?」
【竜の力を授業で使うのは禁止なんだろう?もしかしたら謹慎になってしまうかもよ?】
「あぁ…そんなことか」
セルジュは特に気にする風でもなく答えるた。
「全然構わない。なんてたって、ラーシャの為だからな」
その答えにニクスは満足そうに笑うと、ルーキスの元へと向かった。
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【ニア様!!もし気分が悪くなったらすぐに言って下さいねぇ!!】
エルはニアに気を使いつつもルーキスの上空を飛び続ける。
ルーキスがどんなに急降下急上昇、右へ左へ急旋回しようが全てついて行き、ルーキスの身体が影に入るように徹底する。
それを下から見ながらニクスが感嘆の声を上げた。
【さすが、エル。これなら大丈夫そうだね】
「あぁ…!ニクスやってくれ」
ニクスは口を開くと大きく咆哮を上げた。
するとルーキスを覆っていた影がうねり出し、無数の触手が伸びてルーキスを締め上げ拘束する。
【あああぁぁぁああぁぁぁぁあああぁぁぁぁっ!!】
ルーキスは声を上げて影の触手から逃れようと全力で抵抗をする。
【エル!絶対に影をルーキスから影を外さないで!拘束が解かれるから!】
【任せてください!】
2頭の竜は連携してルーキスを拘束する手を強めた。
それに比例するようにルーキスの激しさが増し、ラーシャの手はいよいよ力が入らなくなって来た。
「も…む、り…!」
掠れた声と共に、ついにその手が紐から離れた…。




