ライゼのわがまま
「ゼンが狙えば確実に当たる。これって凄い事なんだよ?」
「だってそういう能力だし」
当たり前だとばかりにゼンが言うと、ライゼも頷いた。
「それが凄いって言ってるんだ。それこそ、最近鉄の国で新開発された超遠距離砲は自国から世界各国の好きな場所に砲弾を落とすことが可能だけど、複雑な計算式を用いらなければならない。その点ゼンになら簡単に使いこなせる。…あ、でも視界に入ったもの限定なんだっけ?顔を思い浮かべるだけじゃダメ?」
そう言ってその後も、各国の最新鋭の物騒な武器の名前ばかりをつらつらと言っていくライゼを慌ててゼンが止めた。
「親父、ストップ!ストップ!!!」
「え?何?どうしたの?」
ライゼは不思議そうな顔をする。
「なんで、さっきから国を滅ぼせそうな武器ばっかり挙げていくんだよ。俺は竜の国の騎士だぜ?主に街の犯罪や、国内外の竜の密猟者の捕獲だ。確かに国の防衛も担ってるけど、そんな殺傷能力の高い武器が必要になる事なんて滅多にないだろ?それこそ、戦争でも始めないと…」
そこまで言ってゼンは、ライゼが纏う空気が変わったのに気づいて口を噤んだ。
ライゼは笑みを消して、真っ直ぐにゼンの青い瞳を射抜く。
「ゼン、あのね、これは言うべきじゃ無いってわかってるんだ。これを知っているのは国でも一部だけだし、陛下も箝口令を敷くくらいだからね。だから、一般騎士であるゼンに言うのは間違ってる」
まるで自分に言い聞かせるようにライゼはそう言って首を横に振る。
「でもね、僕はわがままだから、大切な人たちには生き残って欲しいし、今から準備をして備えて欲しい。たとえ、情報漏洩だと糾弾されても少しでもみんなが助かる方法があるのなら、僕はそれに賭けたい」
「親父…?」
不安になってゼンが声を掛けると、安心させるようにライゼはいつもの柔らかい笑みを浮かべた。
「近いうちに戦争が始まるよ」
耳を疑うような一言に、ゼンは思わず聞き返した。
「え?」
「世界を巻き込むほどの大きな戦争がね。それがいつなのか、どれくらいの死者が出てるのか全くわからないけれど、きっと戦争は起こる」
そう断言するライゼにゼンは唾を飲み込む。
「だから、能力の精度をあげなさい。ゼン。結婚したいくらい大切な人がいるのなら尚更ね。君は戦争に必ず参加しなければならない。無事に大切な人の元へ帰るなら力をつけないと」




