束の間の平和
いつもよりも少し早く目が覚めたリライは一瞬、寒気がして身体を震わせた。
風邪を引いたわけでもないのに、おかしいと首を捻りながらベッドから起き上がる。
いつまでも寝ていたいが、そうも言ってはいられない。
これから、仕事があるのだ。
リライは首を横に振り眠気を飛ばして、ポットを竈の上に乗せると、備え付けられている火の魔石に触れて火を生み出す。
ポットを火に掛けている間に適当に顔を洗い、身支度を軽く済ませて台所へと戻ってくる。
「さてと…朝メシは…っと」
机の上に乱雑に置かれた紙袋を手に取り、中から少し干からびたパンを取り出す。
五日前に買ったものだが、まだ食べられるだろう。
一応臭いも嗅いでみたが、変な臭いもしないし問題無い。
それにシューリカからもらった杏のジャムを塗っていると、シュンシュンとポットが音を立てて湯が沸いたのを知らせる。
本当は茶でも沸かせばいいのだろうが、今日はシューリカも来ないので白湯でいいだろう。
茶渋のついたマグカップに湯を注ぎ、リライの朝食は完成した。
「今日は静かでいい朝だな」
毎日来ていたシューリカは、最近ライゼ達が帰って来た為、しばらく来れないかもしれないと言っていた。
その言葉通り、週に一、二回くらいに訪問は減りリライは平穏な日々を過ごしていた。
毎回、少し出るのが遅れたくらいで扉を蹴破られたのでは、堪ったものではない。
寂しくないと言えば、嘘になるかもしれないがそれでも一人は気が楽だったし、それに今は頑張らねばならない時だ。
セルジュが第零騎士団に入るためにスノウコルドで一年修行するという。
セルジュが頑張っているのに、いつまでも家の中に引きこもってシューリカに面倒を見てもらう訳にもいくまい。
大きく口を開き、放置されて硬くなったパンを食いちぎると渋い顔をする。
「…ジャムは美味いが、パンは最悪だな」
悪態を吐きながら白湯を飲み、さらに顔を顰めさせた。
「白湯じゃ、味気ないな…。かと言って今から茶を沸かすのもな…」
そう言って視線を彷徨わせると、杏ジャムが目に入った。
「これでいいか」
杏ジャムを手に取り、スプーンいっぱいにジャムを掬い上げて白湯の中にぶち込んだ。
クルクルと適当に白湯に溶かしてから飲んでみると、意外と美味しい。
満足そうに頷いてから、険しい顔でパンに喰らいつく。
その時、コンコココンコンコンとふざけたリズムを刻みながら扉が叩かれた。




