一触即発
自他国共に竜は大変貴重であり“金”になる。
子竜や老竜、珍しい竜を捕まえて売り払う密猟者が後を経たない。野生の竜や、すでに契約された竜であってもその体から無理矢理鱗を引き剥がす者までいる。
それが他国の者のみならず竜の国の民でさえ金に目が眩み竜に害を成す輩がいるのだ。
“危機回避訓練”とは、竜の乗り方はもちろん竜をそういった危険から守るための術を学ぶ必修科目であり、竜と共に生きていく上で必ず習得しなければならない。
特に“竜使い”になって世界を巡るという夢のあるラーシャには危機回避訓練は他の生徒よりも重要度が増す。危機回避訓練の成績は常にSを取らなければ“竜使い”は夢のまた夢の話になってしまう。
ラーシャは校庭に出ると、空を飛んでいたルーキスを呼び寄せて竜帯を慣れた手つきで装着した。
「ルーキス、今日こそお願いね」
ラーシャはそう言って太陽の光を浴びてキラキラと虹色に輝く白い鱗を撫でる。
【…】
それに対してルーキスは沈黙で答えた。
内心溜息をつき、焦る心を必死に押さえつけてラーシャは笑みを作る。
実際の話、危機回避訓練の成績はかなり悪い。ラーシャとルーキスの相性が絶望的に悪いのか、ルーキスが全くと言っていいほどラーシャの言うことを聞かない。
どうしたらいいのかラーシャ自身全くわからなかった。何が悪いのかわからない。竜は人間の言葉がわかる生き物だ。話し合えばいいのだが、ルーキスはこの事に関しては沈黙を貫く為にどうすればいいのかわからないのだ。
「ラーシャ、準備できたか?」
背後から声をかけられ振り返れば、そこにはベルナデッタを連れたソルが立っていた。
「うん、一応竜帯はつけた…後は言うことを聞いてくれればいいんだけど」
「まぁ、後はルーキス次第だな」
「そうなんだよね…。あ、そういえば今日の危機回避訓練の項目ってなんだっけ?」
「四対四のチーム戦でボール当てだ」
「ボール当てかぁ…」
その言葉にラーシャは苦虫を噛み潰したような顔をした。
ボール当てはその名の通り、ボールを当てるゲームだ。ルールは至ってシンプルで、一人につき五つの自分のチームの色のカラーボールを配られ、空中で敵の竜にボールを当てる。
竜にカラーボールが当たると割れて、その色が竜の体に付着するため当たったかどうかは一目瞭然。カラーボールを多く当てて得点を多く取ったチームの勝利だ。
リーダーは1回当たれば5点、その他のメンバーは1点取得となる。
リーダーは高得点だが、大体は逃げるのが上手い者がリーダーになる事が多い。だからとにかく勝ちにこだわるのなら、大体は連携がうまくいかずに下手くそな者が狙われる。
つまりラーシャが格好の的となる。
「カラーボールの塗料なかなか落ちないんだよねぇ」
【最初から弱気になってどうする?今回はルーキスも腕を振るってくれるやも知れぬぞ?のう、ルーキスよ】
ラーシャを励ますように声をかけてベルナデッタがルーキスを見れば、ルーキスは心底嫌そうな顔をした。
【勝手に期待するな、ババア】
【…すまぬな、ラーシャよ。どうやらルーキスは余に消し炭にされたいようじゃ。別れの挨拶を済ませよ】
そう言って口の中に炎を踊らせるベルナデッタを見て、その本気度にラーシャが体を震わせてルーキスとベルナデッタの間に入って止める。
「ルーキスを消し炭にしないで!!」
【こやつの性の悪さは一度消し炭にせねば治らぬであろう?】
【その前にオレが光を放って一瞬で消し去ってやる】
【ほう?この余に挑むか!“獄炎の女帝”と言われた余に!!】
ルーキスとベルナデッタがバチバチと火花を散らし始めたのを見て、ラーシャとソルはお互いのパートナーを必死に宥める。
「ルーキス!落ち着いて!!口の中に光を溜めないで!!ベルナデッタは仲間なんだから!」
【あのババアは一度痛い目を見せないと大人しくならないからな。殺さない程度に消す】
「殺さない程度に消すの意味がわからないから!!ベルナデッタは私たちを励ましてくれているんだからそんな態度取らないで!」
必死に説得をすれば、ルーキスはため息をついて口の中に溜め込んだ光を飲み込む。
「もう…すぐ怒るんだから」
ほっと胸を撫で下ろし、ソルの方を見ればソルもベルナデッタの説得に成功したようだった。
「お前らはいつも騒がしいな」
掛けられたその声にラーシャはうんざりしたような顔をした。一難去ってまた一難だ。
声の方に視線を向ければそこには、フォルテと取り巻きである、ベイン、ダルテ、シーラがいた。
「別にいいじゃない。フォルテ達には迷惑かけてないでしょ」
「えー?すごくうるさくて迷惑してるんですけどー?耳がキンキンしちゃって授業に支障きたしちゃうかも」
シーラが戯けて言えば他の三人がどっと笑い出す。
【目障りだからこやつらを消し炭にするかのう】
【賛成】
ベルナデッタとルーキスの目が仄暗く光る。