シューリカの心配
「よっと。…ありがとう、ルーキス。ここが私達の家だよ」
ルーキスから飛び降りると、ラーシャは笑顔で家を紹介する。しかし、ルーキスは顔を顰めてボソリとつぶやく。
【小さい小屋だな】
「ちょっと!本当に失礼!!」
【素直な感想だろ?気にするなよ】
怒るラーシャの肩に体を小さくしてからちょこんとルーキスが乗る。
【早く入ろう】
「…全く」
ルーキスには後で注意するとして、今は疲れたし早く寝たい。ラーシャはこれ以上は何も言わず扉を開いた。
「おばあちゃん、ただいま」
ラーシャが家の中に入ると、ちょうど朝食を並べていたシューリカが手を止めて笑顔で出迎えた。
「おかえりなさい、ラーシャ。その子が新しい子ね?あら…この子」
シューリカはそう言ってルーキスをジッと見つめた。
「白竜、じゃ無いわね。…まさか虹霓竜…?」
シューリカの声に驚きの色が滲んでいる。ラーシャは得意げに胸を張って頷いた。
「そうだよ!女王様と同じ竜なんだって!」
「それは…すごいわねぇ…」
困惑したような顔をしてシューリカはそう言って椅子の背もたれに乗るハクレンを見てからルーキスに笑みを浮かべた。
「はじめまして、私はラーシャの祖母のシューリカ。あなたの名前は?」
【ルーキス】
「そう、いい名前ね。ルーキス、ラーシャはとってもお転婆で危なっかしい所があるからよく見てあげてね」
「おばあちゃん!!」
顔を赤くして怒るラーシャにシューリカは笑って流すと、ハクレンをルーキスに紹介する。ハクレンは例の如く何も言わないがまるで孫を見るような優しい表情を浮かべて挨拶代わりの白い霧を吐き出した。
「ところでラーシャ、朝ごはん食べる?」
「んー、いいや。とりあえず今はもう寝たい」
「じゃあ朝ごはんは取っておいてあげるから先にお風呂には入っちゃいなさい?森を歩いていたんだから汚れてるでしょう?そのままベッドで寝るのはダメよ」
「はぁい…。とりあえずルーキスに部屋を案内してくるね」
ラーシャは目を擦りながらそう言うと、ルーキスを連れて部屋へと戻って行く。それを見送った後、シューリカはため息をついて椅子に座ると冷めたお茶に口をつけた。
「虹霓竜がついに目を覚ましたのね。…ハクレン、また同じ事が起こると思う?」
【…】
ハクレンは何も言わないがその表情は険しい。それだけでハクレンが何を言いたいのか手に取るようにわかる。
「そうねぇ。心配したってしょうがないわよね…。他の二匹も目を覚ましているはず。その二匹と契約した子が善良ならいいんだけど」
そうじゃなければ千年前と同じ事が起こってしまう。経験した事は無いが、若い頃にハクレンに見せてもらった事があった。
「千年前と同じ事を起こしては絶対にいけないわ。…絶対に」
コップを強く握りしめてそう言うと、シューリカはハッと気付いて椅子から立ち上がる。ルーキスに部屋を案内しに行ったラーシャの帰りが遅い。
これは間違い無く寝てる。
「ちょっと、ラーシャ!寝る前にお風呂に入りなさい!!」
寝かせてあげたいがここは心を鬼にして、シューリカはラーシャを叩き起こしに部屋へと入って行く。