社会人としての礼節を
ニアはグッと拳を握りしめた後、ケルディに向き直り睨みつける。
珍しく怒りを露わにするニアにケルディは内心驚くが、表情を一切出す事なく真っ直ぐに見つめ返した。
「ダルテは私の友人ですわ」
「存じております。しかし、それとこれとは別です」
「もし、さっき話していたのが、ラーシャやソル達だったとしても同じ様な対応をするのですか?」
ケルディは一瞬、目を丸くするがすぐに表情を消し去り頷いた。
「ラーシャ様達が、もし、麒麟商会に勤めていたのならば私はダルテと同じ対応を取るでしょう」
「それはどうかしら?」
尚も食い下がるニアにケルディはため息をつく。
「先程も言いましたが、今は業務中です。プライベートなら何も言いませんが、仕事をしている以上お金が発生するのですから、仕事の間は社会人としての節度を守らなければなりません。特にお嬢様は麒麟商会、商会長の娘なのですから接する際は敬意を払わねば周りに示しがつきません」
ケルディの言葉にニアはグッと言葉を詰まらせた。
言っていることは間違っていないし、普段なら素直に受け入れてるはずなのに。
ケルディには全てを見透かされて上で邪魔をされている気がしてしまう。
自分に対するダルテの気持ちも。
…そしてダルテに対する少しずつ変わっていく自分の気持ちも。
ニアは息を吐き出して、力を抜く。
「そう、ですわよね…」
もう少し冷静にならないと。
父親が会わせたい人がいるだなんて意味深な事を言うものだから、少し気が昂っているのだ。
「変な言い掛かりをしてごめんなさい」
ニアの言葉にケルディは首を横に振る。
「わかっていただけたのなら、私はそれで十分です。…それにこれからです。大変なのは」
「え?」
最後の言葉が聞き取れずに、ニアが聞き返すがケルディはそれ以上は何も言わずに頭を下げた。
「申し訳ありません、ダルテの事で本題が後回しになってしまいましたが、本日昼食をレストランで取る予定だったのですが、相手の方が早く会いたいと屋敷にいらっしゃったのです」
「あら、そうですの?」
「はい。その為、すぐに応接の間に来る様にと」
「わかりましたわ。それはすぐに行かなくてはなりませんわね。エル、行きましょう」
ニアはケルディに先導され応接の間へと急ぐ。
ニアからは表情が見えなかったが、先導するケルディの顔は辛そうに歪んでいた。




