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竜使いのラーシャ  作者: 紅月
それぞれの覚悟と夢と試験
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何だかんだ言って



++++++++++++



「こんのバカヤロォォォォォォォォ!!!」


 鼓膜が破れる勢いで怒鳴り散らすゲオルグの前で正座しながら、ソルとセルジュは顔を真っ青にしてガクガク震える。


「まぁまぁ、ゲオルグ。ちょっと落ち着いて」

「うるせぇ!落ち着いていられるか!!お前は黙ってろ!」


 止めに入るデイルを一喝すると、ゲオルグはギロリとソルを睨みつける。


「ソル」

「は、はい!」

「てめぇにいつから、ここに人を住まわせる許可が出来る権限が与えられたんだ?あぁ?」

「す、すみません…」

「うちは慈善団体じゃねぇんだぞ?」

「ひぃぃぃ」


 めっちゃ怖い。こんなに怒られると思っても見なかったソルは正直少しちびりそうである。ソルはそっとセルジュの方を見ると、セルジュも小刻みに震えている。

 セルジュは何も悪くないのにこんな怖い目に合わせてしまって内心申し訳なさでいっぱいだ。何とかして、父親を黙らせなければ。

 助けてくれる予定だったデイルはただ苦笑いするだけで、壁際に立ってるだけだし。

 ソルは膝の上の拳をギュッと強く握りしめ、覚悟を決めてゲオルグを睨み返した。


「か、勝手に決めたのは悪いって思ってるけどセルジュを一人にさせるわけにはいかねぇだろ!!友達なんだ!助けるのは当たり前だろ!」


 ソルの言葉にセルジュは驚いて、その顔を見上げた。視線を感じてソルはちょっと照れ臭くなって頬を掻く。


【下心だけだと思っておったが意外と友達思いの童だな】

【下心だけって…随分な言い方だね】


 デイルの足元でことの成り行きを見守りながらベルナデッタとニクスがそんな会話をしていると、ゲオルグは大きなため息をついた。


「うちは装飾品の工房だ。働かない奴はここには置いておけない」

「…でも」

「いいよ、ソル。大丈夫だ」


 セルジュは食い下がろうとするソルを止めると立ち上がった。


「これ以上は迷惑かけられない。…ニクス行こう」


 呼ばれてニクスはベルナデッタに挨拶をした後、セルジュの肩を上に乗っかる。


「ありがとうございました」


 頭を下げて出ていこうとするセルジュの背中に、ちょっと待てと呼び止められた。


「俺は働かない奴は置かないと言ったんだ。この意味、わかるか?」

「え…?」

「しばらく家に帰れないんだろ?だったら住み込みで働けばいい。働きさえすれば文句はない。うちは慈善団体じゃないからな。しっかり働いてもらう。働けば給料だってくれてやる」


 ゲオルグの言葉にソルとセルジュは顔を見合わせた。


「それってつまり…?」

「ここに住んでもいいって事、か?」

「セルジュが働く気があるならって話だ。どうする?働くか?それとも出ていくか?」

「働きます!しばらくここでお世話になります!!」


 勢いよく頭を下げるセルジュにソルが抱きつく。


「やったな!セルジュ!!!」

「あぁ、ありがとう!」


 二人が喜んでいると勢いよく扉が開かれて、シアが中に入ってきた。


「もう話は済んだ?親父も話が長いし、くどい。最初からいいならいいって言ってあげなさいよ。今日からセルジュはソルと相部屋よ。あんた達が怒られてる間にベッドの用意はしておいたから。部屋に荷物とか置いたら寝る前にお風呂に入りなさいよ。いい?ソル。ちゃんと案内してあげるのよ」


 シアはテキパキと指示を出すと、ニクスとベルナデッタを、見てニッと笑う。


「いい竜じゃない。今度鱗分けてね」


 シアはそう言い残してさっさと部屋を後にした。まだ朝も早い時間だ。朝食の準備に忙しいのだろう。

 そんな中、部屋の準備をしてもらって悪い事をしてしまった。今度改めてお礼を言わなければ。

 セルジュがシアに感謝していると、デイルがパチパチと気の抜けた拍手を送る。


「いやー、よかったね!住むとこも無事に決まって」

「ていうか騎士団長が話を丸く収めてくれるって話だったよな?」

「無理無理、ゲオルグ怒ると怖いし」


 あはは、と声をあげて笑うデイルの頭をレイヴがガシガシ噛む。


【子供達に丸く収めると約束したらしっかり全うなさい】

「いててて…なんだかんだ言って絶対ゲオルグは受け入れてくれると思ってたから心配ないよ。噛むのやめてくれるかい?」

「たく…こんなんで良く騎士団長が務まるな」


 呆れるゲオルグに同調するようにレイヴも頷いた。


【しっかりして欲しいですわっ!全く…】

「これでも部下には慕われてるんだけど?…まぁ、いいや。後は任せたよ、ゲオルグ」

「お前はまた森に戻るのか?」

「いいや?ちょっと女王陛下のところにね」

「女王陛下?」

「そう。じゃあ、よろしく」


 手をヒラヒラさせてデイルはレイヴと共に部屋から出て行く。残された三人は呆然としてデイルを見送る。

 しばらくして、ゲオルグが口火を切った。


「次も同じ事があると困るからキツく怒ったが、友達のために行動を起こした事はいい事だ。これから勝手に決める前にちゃんと許可とってからにしろ。人を助けるって事はそれなりに責任も伴う。忘れるなよ」

「…わかった」


 ソルが頷くのを見るとゲオルグはニッと笑って頭を撫でた。


「よし、今日はよく頑張ったな。セルジュもだ。契約おめでとう。何はともあれゆっくり休め」



++++++++


 ゲオルグと別れソルはセルジュと共に中庭へとやってきた。


「俺たちの部屋は中庭を突っ切ったところにあるんだ。あ、あれが食堂な。ちゃんと覚えておけよ」

「わかった」

「きっと料理とか手伝わされるからな」


 説明していると食堂から母親であるフィアナが出てきた。


「あら、ソルおかえりなさい。セルジュも!今日からここを我が家だと思ってね。朝ご飯まだでしょう?朝ごはん残しておくからお風呂入ったらよりなさいね」


 笑顔でフィアナはそう言うとシアと同じように忙しそうに庭を小走りで抜けて行く。


「優しい母親だな」

「…今だけな。怒るとやべぇから」

「気をつける」


 セルジュは神妙な顔で頷くとソルの後をついて中庭を抜けると、倉庫のような建物に着いた。


「一階は物置になってるんだ。俺たちの部屋は二階。ここの外の階段から行くんだ」


 そう言ってソルは錆びついた鉄製の階段をギシギシ合わせながら登って行く。


「セルジュ、早く来いよ」


 ソルに急かされてセルジュも階段を登る。


「ようこそ、セルジュ」


 そう言ってソルが扉を開けてセルジュを中へと招き入れた。

 部屋の家具は入り口の扉を中心に左右対称に家具が置いてある。ソルが使っている部屋の半分は本や鱗が散らかっていて、セルジュが使うもう半分は綺麗に掃除されていた。

 セルジュが来た短時間でシアがすぐ使えるように綺麗に掃除してくれたのだろう。本当に頭が上がらない。


【汚いな。もう少し、掃除したらどうだ?】

「い、いつもはもうちょっと綺麗にしてるんだよ!」


 ベルナデッタに指摘されてソルは頬を膨らませて怒ると、鞄を机の上に置いてベッドに倒れ込む。


「あー、疲れた。お前もゆっくりしろよ。少ししたら風呂に行こうぜ」

「あぁ、そうだな」


 セルジュは頷くと自分のために用意された半分のスペースへと向かう。

 机には細かい傷や深く抉れたような傷がある。


【ボロボロだね】

「…ここで一人前になる為に努力した後だ」


 そっと傷を撫でる。その傷はすごくかっこよく見えた。きっとソルの机にも同じ傷が無数にあるだろう。


「夢のために頑張るのはかっこいいな」

【セルジュにもあるの?】

「…まぁね。ニクスがいないと叶わない夢が」

【じゃあ、一緒に叶えようか】

「あぁ」


 セルジュは嬉しそうに頷くと、ベッドの前まで行くとソルのようにその場に倒れ込んでみた。

 そこまでフカフカでは無いが寝心地はすごくいい。

 瞼が重い。まるで瞼が鉄になったようだ。


「…ソル、もう風呂に行かないと。これ以上ここにいたら立てないかも」

【安心しろ、ソルならとっくに陥落したわ】


 呆れたようなベルナデッタの声に思わずセルジュは笑みを浮かべた後、頭をグッと後ろに引かれる感覚に襲われる。


「…ダメだ、後で怒られよ…」


 セルジュはついに睡魔に降参して、瞼を閉じればすぐに夢の中へと落ちて行く。


【おやすみ、セルジュ。いい夢を】


 ニクスの声はもうすでにセルジュには届いてはいなかった。

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