一緒に暮らす場所
その時、ずっと黙っていたフラウが話の区切りを見極めてパンパンと手を鳴らす。
「さて試験も無事に終わった事だし、もう帰りなさい。丸一日森の中を歩いていたから疲れただろう?」
さっきまで全員で合格できた事や自分が契約した竜が伝説の竜と同じ竜だと知った興奮で気づかなかったが、言われてみれば身体はかなり疲れ切っていた。
今すぐにでも帰ってふかふかで温かい布団に入って寝たい。
他のみんなも同じようで、ソルなんて欠伸を噛み殺している。
その場の空気が一気に緩み、解散の空気になった。が、その時ラーシャがハッとして声を上げる。
「ちょっと待って!セルジュはどこに帰るの??」
何があったのかは詳しく聞いていないから分からないが、セルジュが今家に帰るのは良く無いことくらいはラーシャにだってわかる。
「いや、俺は別に…」
大丈夫、と言いかけるがニクスと目が合ってセルジュは黙り込む。自分は父親であるリライに何をされても構わない。だけど、ニクスとなると話は別だ。
ニクスを見たらリライは激昂するだろう。もしかしたら傷つけようとするかもしれない。
ニクスは何としても守らなければ。あの家には帰れない。
となると、今日からどこで寝泊まりすればいいのか。
セルジュが悩んでいるとその手をラーシャがギュッと握った。
「なら、私の家においでよ!!」
「おい!ラーシャ!何を勝手な事を!!」
急な提案にゼンが慌てて声を上げるが、ラーシャは全く気に止める様子はない。
「だってセルジュはお家に帰れないんだよ?なら、パパとママの部屋も空いてるし、しばらくセルジュを私達の家で住まわせてあげればいいじゃない」
「だからって…」
ゼンはそう言いかけて少し考える。今はリライは逮捕されてるから家にはいない。けど誰もいない家に十歳のセルジュを放置するのだって良く無いと思う。
ちゃんと訳を話せば祖母のシューリカも快諾してくれるだろう。
「まぁ、助けたのは俺だしな…」
助けたからには、最後まで責任を持つべきだろう。
ゼンも覚悟を決めて首を縦に振ろうとした刹那ーーーー。
「ちょ、ちょっと待った!!!」
顔を真っ赤にさせてソルが声を上げた。
【ほう、どうした?急に阿呆みたいに大きな声を出しおって】
「ベルナデッタはちょっと黙って」
ニヤニヤ笑うベルナデッタを黙らせてから、ソルは深呼吸をした。
このままゼンが許可したら今日からセルジュはラーシャの家で暮らすことになってしまう。そんなの絶対に嫌だ!!!
絶対に阻止しなければ!
「お、俺の家に来いよ!セルジュ!!」
「ソルの家に?」
「おう!俺の家は工房で弟子とかも住んでるし空き部屋もたくさんあるんだ。俺の部屋も最近兄弟子が独立して片方のベッド空いてるし。セルジュ一人増えたところで大差ないからきっと親父もいいって言ってくれると思うんだ」
空き部屋がたくさんあるのは嘘だ。今は二人部屋であるソルの部屋しか空いていない。しかも、絶対勝手にセルジュを住まわせる約束したら父親に怒鳴られるに決まってる。
ソルはチラッと心配そうな顔をしてこっちを見ているラーシャを盗み見た。
怒られるってわかっているが背に腹はかえられない。
【これは青春ってやつですね】
「ソルをあんまり冷やかしては行けませんわ」
ニアはそう言うと微笑む。ここで誰もセルジュに住む場所を提供しなかった場合は自分の家に招こうと思っていたがそれは大丈夫だったようだ。
ちょっと下心が見え隠れするが、一番妥当だと思えた。
「じゃあ、ソルが迷惑じゃなければ…少しの間だけ泊めてもらおうかな…」
「任せろよ!」
とんっと胸を叩いてソルが笑えば、セルジュも、安堵したように笑う。
「じゃあ、僕も着いて行ってゲオルグに説明して、お願いしよう。そしたら丸く収まるだろうから」
デイルの言葉にソルは激しく頷いた。渡に船とはまさにこの事だ。
「ありがとうございます!!」
「どういたしまして。じゃあ、そろそろ本当に帰ろうか。ゼンは今日は日勤なんだから、行方不明の後の四人ちゃんと探すように」
「はっ!」
ゼンは背筋をピンと伸ばして敬礼をするとアイシャに飛び乗って森の中へ入って行った。
「セイラはラーシャとセルジュの竜の情報を書き直したら今日は上がって」
「了解しました!」
セイラも頷くと小屋へと戻って行った。二人が各場所に向かったのを見届けてフリーラの方を見た。
「フリーラは申し訳ないんだけど少し僕の代わりにここの指揮を任せるよ」
デイルの言葉にフリーラは首を傾げた。
「何故です?」
にこりと笑ってデイルが指笛を吹くと、空から紫竜が舞い降りてきた。
「レイヴ、おはよう。機嫌治ったかな?ちょっと出かけるよ」
そう言ってレイヴの背中に乗る。
「ソルの家に行った後、女王陛下の元に行って来るね」
「へ?」
驚いて固まるフリーラに構う事なく、デイルはレイヴと共に空へと飛び上がった。
「じゃあ行くよ!」
その言葉を聞いてラーシャ達は慌てて自分たちの竜に身体を大きくしてもらうと背中に乗って各自帰路に着く。