無事に帰還できて
「…あれ?」
たくさん人が集まっているのにその場はしんっと静まり返って誰も何も反応を示さない。
段々不安になって来たラーシャは首を傾げた。
「もしかしてダメだった??」
【そしたら、契約も解消だな】
「いやいや、もう契約しちゃったし出来ないでしょー」
【…】
「え、本当に?」
何も言わないルーキスにラーシャは顔を真っ青にさせる。
ーーーーその時。
わっ、と歓声が上がり一気にその場が騒がしくなる。
「フリーラ、他の騎士団に一名試験が無事完了した為捜索人数は四人と伝えて」
「了解しました」
デイルの指示に副団長であるフリーラと呼ばれた女性は一礼をすると直ぐに耳飾りに付いている通信石を使って連絡を取り始めた。
「他の者は捜索を開始する!」
その一言で歓声を上げていた騎士団はゼンとセイラを残して、竜と共に飛び去っていった。
ゼンはそれを見送るとラーシャの元に駆け寄る。
「全く、心配かけさせやがって…」
「えへへ、ごめんなさい。遅くなっちゃった」
ラーシャがそう言って笑うと、ゼンもホッとしたように笑う。
「ラーシャ!!」
名前を呼ばれて声の方を向くと、そこにはソル達三人がいてそれぞれ竜を肩に乗せていた。それを見てラーシャは嬉しくなる。
「良かった!みんなも契約出来たんだね!!」
「あぁ、ラーシャよりもかなり前にな!」
ソルはそう言ってため息をつく。
「また、面倒ごとに首を突っ込んで竜を探すどころじゃなくなったんじゃないかって心配したぜ」
「あは、あははは…。まさかー」
【…】
ラーシャはソルから目を逸らして適当に誤魔化した。
「でもまぁ、みんなで無事に契約出来て良かったですわ!!」
「そうだよね!これでみんなで進級出来るね!」
「筆記に受かればな」
「…うっ」
セルジュの的確な指摘がグサッと胸に刺さるが何とか笑みを崩さずに耐えるラーシャにニアが首を傾げた。
「ところでラーシャはいつまで竜に乗っているんですの?」
「え!?あぁ、嬉しくってついずっと乗ってた!!」
「嬉しいのはわかるけどそろそろ降りてやれよ」
ソルに促され、ラーシャはルーキスにお願いしてゆっくり降ろしてもらう。恐る恐る、足を下ろすと案の定ズキンッと強い痛みが走り思わずよろけた。
「おっと」
咄嗟にゼンがラーシャを受け止めた。
「どうした?足痛めたのか?」
「あー…」
誤魔化そうとしたがみんなの視線が痛すぎて、ため息をついて観念した。
「実はちょっとフルルフに襲われてその時に転んで足捻ったみたい」
「はぁ!?フルルフに!?何で笛をすぐに吹かなかったんだよ!?」
ゼンの物凄い剣幕にラーシャは震え上がる。
「無くしちゃって」
「無くしたぁ!?」
「ひっ」
「笛を無くすのがどんだけ危ないかわからなかったのか!?」
「ひぃぃぃ」
怒られて縮こまるラーシャを見かねてデイルが助け舟を出すために、ゼンの肩に手を置いた。
「まぁまぁ、無事に帰って来たんだからこれ以上怒らなくてもいいじゃない。それより治療が先だよ。今、フラウ先生にアルボルを呼んできてもらったからすぐに治療しよう」
その言葉にラーシャは顔を真っ青にさせた。
怪我をしているのがバレたくなかった理由がアルボルの治療だったのに。
「だ、大丈夫です!すぐ治るんで!!本当に!!」
【急患はどこー?】
アルボルの声を聞いた瞬間、ラーシャは身体を震わせた。
「いないです!」
ラーシャの言葉を無視して今度は体がフワッと浮かんだ。驚いて上を見上げればアイシャがラーシャを咥えていた。
「アイシャ!!本当にダメ!やめて!!」
ラーシャの言葉を無視してラーシャをアルボルの頭上まで運ぶ。
【オッケー!じゃあ落としてー】
【はーい】
「落とさないでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
アイシャは容赦なくラーシャを放した。ラーシャは悲鳴をあげながらアルボルの口の中へと真っ直ぐに入っていった。
「うわぁ…」
「これで怪我も治りますわね」
「あれはトラウマになるよな」
ソル、ニア、セルジュはラーシャに同情しながら彼女の帰りを待つ。




