ずっと一緒にいよう
「うわぁ…!」
ラーシャは目を輝かせた。
ゼンによくアイシャに乗せてもらっているが一人で乗るのは生まれて初めてだ。しかも契約前の竜に乗せてもらうだなんて。信じられない。
風を切るこの感じも数えきれないくらい経験しているはずなのに、初めて乗るような感覚で胸がドキドキする。
【空が白み始めた。もうすぐ朝だな】
白竜の言葉でラーシャはタイムリミットが近いことに気づき、ギュッと胸が締め付けられた。さっきまでのドキドキ感は嘘の様に消え失せてしまった。
白竜を助けたのは後悔してない。きっとこの子を無視して他の竜と契約していたら罪悪感と後悔で苛むのは目に見えていたから。
また来年だ。また来年、頑張ればいい。
後悔してないのに、涙がじわっと溢れ出てきて慌てて目を擦ると話題を変えようと声をかけた。
「…ねぇ?何でキミは契約してないのに私を乗せてくれたの?」
【その足じゃ森を歩けないだろ?】
そう言われて足首を痛めていたのを思い出したラーシャは頷くと、白竜の背中を撫でた。
「ありがとう。優しいんだね」
【優しくない。…朝までなんだろ?】
「何が?」
【試験】
「…うん。よく知ってるね」
【何千年も人間が試験を受けに来てるの見てるからな】
「そっか…」
もう試験の終わりの時間だから、送って行ってくれようとしている白竜はやっぱり優しいと思う。
優しいけど、その優しさが辛く感じてしまう。
また溢れ出しそうになる涙をなんとか堪えていると、白竜が口を開いた。
【時間がない。さっさと始めるぞ】
何気ない白竜の一言にラーシャはドクンっと胸が高鳴った。
これはもしかして…。
【汝、我を望むか?】
心から待ち望んでいた言葉にラーシャは息を呑む。
「本当に私でいいの…?」
【オレは認めた。早く答えろよ】
ラーシャは嬉しさのあまり震えながら頷いた。
「求める」
【汝の名は?】
あんなに名前を教えるのを拒んでいた白竜に名前を聞かれると何でこんなに嬉しいんだろう。
「ラーシャ」
【我の名は?】
白竜の質問と同時に森の向こう側からゆっくりと日が昇ってきた。
【夜明けだ】
「夜明けだ」
一人と一匹の声が綺麗に重なった。
朝日に照らされた白竜の鱗は同じ白竜のハクレンと違い、まるでまだ誰も足を踏み入れていない新雪の様にキラキラと光り輝いている。
「すごい…こんな綺麗な鱗初めて見たよ…」
ラーシャは感嘆のため息をつくと、一人頷いた。
「うん、決めた。今日、二人で迎えた夜明けを忘れないように、キミに夜明けを意味するルーキスって名前を贈るよ。どうかな?」
【いいんじゃないか】
そっけなく言いながらも、どこか嬉しそうにそう言って羽を大きく羽ばたかせる。
「ねぇ、ルーキス」
【どうした?】
「私は竜使いになるのが夢なの」
【竜使いか…。大変だな】
「うん。大変だと思うけどさ、一緒に竜使いになって一緒にいろんな物を見に行こう。今日みたいにさ、すごく綺麗な景色を一緒にたくさん見よう。きっとルーキスとならなんだって出来るって思うんだ」
ラーシャは目を輝かせてそう言うと、ルーキスの首に抱きついた。
「きっと楽しいよ!私と契約した事絶対に後悔させない!!ずっと一緒にいようね!」
【まずはずっと一緒にいるには、報告しないとだな。集合場所まで案内しろ】
「任せてよ!さぁ、ルーキス!記念すべき二人だけの飛行を楽しもう!」
ラーシャの元気な掛け声に応える様にルーキスは、羽を力強く羽ばたかせて集合場所へと向かう。




