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竜使いのラーシャ  作者: 紅月
それぞれの覚悟と夢と試験
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過去を大切にする者

 ラーシャは暗くなった森を月明かりの光だけを頼りに半べそかきながら歩いていた。途中で何度も見かけた灯籠の花は夜行性の虫型の魔物が寄ってくるとゼンから聞いていたから怖くて摘めない。

 虫が寄ってくるのも怖いし、いざとなったら笛を吹こうと思っていたのにいつの間にか笛も無くなっていた。誰も助けを呼べない状況にラーシャは不安に押しつぶされそうになる。

 その時不意に近くの草むらが揺れ、ラーシャは身を強張らせた。


「ひぃ…怖いよ…」


 しばらく、警戒してその場に立ち尽くしていたが何も出てこないことに安堵のため息をつく。

 そうやって怖がりながらもラーシャは森の中を目を凝らしながら進む。怪我した子白竜を見逃さないように。

 昼間からずっと気になっていた。自分の竜探しそっちのけで、探し続けているが一向に見つからない。


「私は最悪また来年試験を受ければいいけど…でも、あの子は…」


 今助けなきゃダメだ。絶対に。

 その思いだけが、ラーシャを突き動かす。


「こっちにいるような気はするんだけどなぁ…」


 どこを探せばいいかわからなかったから勘を頼りにここまで来たがもうだいぶ夜も更けてきた。時間がない。


「探し方間違えたかな…?」


 ラーシャがため息をついて、落胆していると目の前から明るい光が見えてきた。まだ夜明け前なのに何故、前がこんなに明るいのか不思議に思いながら、そこまで行くと驚いて目を見開いた。小さな空き地に広がるのは灯籠の花の群生。絵本の中の様な美しい光景に息を呑む。

 その中央にある切り株の上にラーシャが探していた子白竜が座り、傷口をペロペロ舐めていた。


「あ!昼間の子白竜!」

【!?】


 ラーシャの声に驚いて子白竜が慌てて逃げようと切り株の上から飛び降りた。


「あぁ!お願いちょっと待って!何もしないから!お願い!!待って!!!!」


 必死に呼び止めるラーシャの声が届いたのか、子白竜は走るのやめて少しラーシャの様子を伺った後、切り株の上に戻るとちょこんと座った。

 それにラーシャはホッとすると、怖がられない様にニコッと笑いながら子白竜の元へと行くと膝をついて、目線を合わせる。


「昼間に会ったよね?覚えてる?私の名前は…【名乗らなくていい。最初に知る人間の名前は契約する人間だって決まってるんだ】


 子白竜の言葉にラーシャは驚いて、目を丸くする。


「え、キミ喋れるんだ」

【喋って何が悪い。竜はみんな喋るだろ】

「それは、そうだけど…さっきは喋らなかったじゃない」

【喋る気分じゃなかったからだ】

「なるほどねぇ…喋らなかったから赤ちゃんかと思った」


 ラーシャの言葉に子白竜は、わざとらしい大きなため息をついた。


【赤ちゃんな訳ないだろ】

「すっごく生意気なチビ竜」


 ラーシャは呆れた様にそう言って鞄から包帯と塗り薬の入った小さな缶を取り出した。


「まぁ、いいや。怪我したところ見せて。治療してあげるから」

【人間に治療してもらわなくてもこれくらい舐めてればすぐ治るからいい】

「いいから、見せて」


 有無を言わせないラーシャの態度に子白竜は渋々、傷口を見せる。少し腫れていて傷口に砂も入っている。相当痛そうだ。


「これは一回、綺麗に洗った方がいいかな?ちょっと滲みるよ」


 一声かけてからラーシャは持ってきていた水筒の水をゆっくりと傷口にかけて綺麗にしてやる。


【痛っ】

「我慢して。…よし、綺麗になった。これから、薬塗るからね」


 痛さに顔を歪ませる子白竜の頭をよしよしと撫でた後、缶の蓋を開けて緑色のクリームをたっぷり手に取ると、傷口に塗り込んでいく。

 その瞬間、子白竜は身体をビクッと跳ねさせると、顰めっ面をする。


【この薬も滲みる…!】

「滲みるのは薬が効いてる証拠だっておばあちゃんが言ってた。この傷薬はおばあちゃん特製だからよく効くよ」


 ふふん、と得意げに笑うと包帯でグルグルと子白竜の足を巻き始める。


「ねぇ?何で最初に知るのは契約する人間の名前だって決まってるの?」

【お前、原初の竜と人間の話知らないのか?】

「知ってるよ!」


 何の能力も持たない人々が迫害され逃げてきたのが、ラディルベ大陸の東の孤島、後に竜の国と呼ばれる島だった。無人島だと思った祖先達はここで住むことを決意するもここは竜の住まう島。

 それを知った人々が恐れおののく中、一人の勇気のある少女が竜の王である金竜と銀竜と契約を結んだのがきっかけで、他の人々も竜と契約を結ぶようになった。人と竜が共存して生きる事を選んだのがこの国の始まり。

 この国の人なら知らない人はいない有名な昔話だ。


【竜は過去も大切にするんだ。原初の竜に倣って最初に人間の名前を聞くのは、契約する人間だけだ】

「ふーん。じゃあ子供のキミは名前を知るのはまだまだ先の話なんだね。…よし、出来た!」


 ラーシャは満足そうにそう言って笑う。


【汚い巻き方だな】

「失礼な!綺麗に巻けてなくても傷口が隠れれば問題無いんだよ」

【本当に?】

「本当、本当!」


 あまりにも自信ありげに言うので子白竜はこれ以上は何も言わずに、代わりに違う事を質問した。


【…お前、オレが子供だって知ってるのにオレの怪我を心配して探してたのか?】

「そうだよ?」

【子供の竜とは契約出来ないって知ってるか?】

「もちろん!ちゃんと先生から聞いてたし」

【もうすぐ夜明けだ。他に契約する竜は見つけたのか?】

「見つけてないよ?キミを探すのでいっぱいいっぱいだったもん」

【…試験なんだろ?今から探すのか?】


 ラーシャは鞄に包帯をしまいながら、苦笑した。


「もう今からじゃ無理でしょ。今年は諦めるしかないね」

【何で試験そっちのけでオレを探した?契約出来ないならオレなんか放っておけばよかったんだ】


 その言葉にラーシャは顔をあげて子白竜の顔をじっと見つめて、その眉間にちょんっと指で突っついた。


「怪我してるって知ってるんだから放って置けるわけないでしょ?それに…」


 ラーシャがそう言った瞬間、草むらが激しく揺れた。ラーシャと子白竜は体を飛び上がらせて草むらの方を凝視した。

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