最高傑作
「つまりお前は、俺の依頼を見習いだから適当にやったって事か?」
その言葉にソルは目を見開くと、グッと奥歯を噛み締め感情を押し殺す。
「そうじゃなくて、技術が伴ってないって言ってるんだ。技術が無いのに報酬は受け取れない」
ベインは冷ややかな目で見据えた。
「技術が伴ってないから、報酬が貰えないような中途半端な仕事をしたって言ってるのか?」
ベインの言葉にソルの中でブチッと何かが切れる音がした。
「なわけ…っ!」
「…」
ソルは勢いよく机をバンっと音を立てて強く叩くと立ち上がって叫び声を上げた。
「んなわけねぇだろ!!!俺が今持ってる全ての技術を注ぎ込んだ最高傑作だぞ!?中途半端なわけじゃねぇ!」
何度も何度も、デザインを描き直し、夜遅くまで工房に残って試作品をたくさん作り、どんなデザインが一番、ナイラとシンシアの鱗を映えさせるのか練りに練った最高傑作だ。
中途半端などと言われる筋合いはない。
息を切らしながら顔を真っ赤にさせて怒鳴るソルを無言で見つめ返した後、ベインはふっと笑みを浮かべた。
「わかってる」
「は?」
予想していなかったベインの言葉にソルが思わず気の抜けた声を出す。
「お前が全身全霊で作ってくれたってのは、最初からわかってんだよ。お前は見習いなんかじゃない。俺にとっては、プロの職人だ。…任せてよかったよ」
「ベイン…」
「だからこそ、報酬を受け取って欲しい」
ベインは依頼料の入った封筒をもう一度、ソルの前に置いた。
「それにミラさんに生涯共に生きて欲しいって告白するのに、友達にタダで作ってもらった指輪を渡すだなんて、ダサすぎるだろ?だからさ、受け取ってくれよ」
ベインに、な?と言われてソルは少し悩んだ後、頷いて封筒を手に取る。
「…ありがとう」
「こちらこそ、本当にありがとう。おかげでミラさんに最後に最高の指輪を渡す事が出来てよかった」
嬉しそうに笑うベインを見て、ずっと疑問だった事をソルは聞いてみることにした。




