想いを託して
「先輩…?」
ケインは振り返ると、不安そうなシリルに笑いかけた。
「後は任せたからな」
そう言って、ケインはシリルを突き飛ばした。
「きゃっ!!!」
尻餅をついて驚くシリルの目の前で床が割れ木の根が勢いよく飛び出すと、瞬く間に巨大な壁を築き上げた。
「ま、待ってくださいっ!!先輩!!」
ケインが何をする気なのか気づいて、シリルは飛び上がった。
「私も戦います!!」
そう言ってシリルは首から下げた袋に手を伸ばす。
「ここは俺に任せろ!オリフィア様に報告をしろ!!」
「でも…!!」
それでも尚、食い下がるシリルにケインは怒鳴り声を上げる。
「行け!お前がいても足手纏いだ!!」
その言葉でシリルはグッと唇を噛み締めると、頭を下げた。
「すみませんっ!!」
そう言い残して、シリルは走り出した。
壁越しでそれを聞いていたケインは安堵のため息をつく。
シリルに全てを任せた。後は命懸けでこの二人を止めればいい。
「あーあ。逃げちゃったけどどうする?」
「やる事は変わりません。裏切り者は殺します」
「だよね?だよね?じゃあサクッとコレを殺して追いかけようかっ!」
クレアがそう言って右手を掲げると、宙に無数の先端が鋭利に尖った鉄の刃を出現させた。
鉄の国出身である彼女の能力だ。
草花の能力がメインの花の国とは相性が悪い。
だからこそ、クレアとは遭遇したくなかった。
「まぁ、それでも、シリルが残るよりは時間が稼げるだろう」
ケインがそう言うと、クレアは声を上げて笑う。
「花の国の人間が誰が残ったって私の刃の前じゃ無意味だって事、教えてあげるっ!」
その言葉と同時に無数の刃がケインに向かって飛んで来る。
だが、ケインは慌てる事なくニヤリと笑った。
「何笑って…!?」
クレアは驚いて目を見開く。
ケインを守るように太い根が床を突き破り現れると、全ての刃が根に突き刺さった。
「簡単には殺されないさ」
「厄介ですね」
ルイスはため息をついた。
「仕方ありませんね。他の者にシリルを追わせましょう」
そう言った瞬間、どこに隠れていたのか複数の人間が物陰から出てくる。
「ちょっと!私の獲物に手を出さないでよ!」
「…わかってます。シリルを追いなさい」
ルイスの一言で、一斉に壁を乗り越えてシリルを追う。




