絶対絶命
花の国の人々は、草花の育成を手助けする能力が殆どだ。
だが時々、花の国でも忌み嫌われる能力が生まれる。
人々を害するそういった能力持ちの多くは、諜報員やその他、汚れ仕事を請け負っていた。
もちろん、それはシリル達も例外では無い。
そして、ジェーンの死因の要因でもある人間の体に草花を生やさせる能力は間違いなく、彼女の能力。
自分の能力が気持ち悪いとよく愚痴をこぼしていたが、自殺する程思い悩んでいるようにも見えなかった。
むしろ、シリルと違ってジェーンの能力は人間がいれば場所を選ばずに使え、尚且つ強力でオリフィアの信頼も厚く、何だかんだ言って自分の能力に誇りを持っているような節もあったように思う。
そこまで考えて、不意にシリルはある事を思い出す。
“種を蒔く者”の教祖様に種を植え付けられた者は、生涯逆らう事が許されない。
その話を聞いた時は、盲信的な信者のただの思い込みだと思ってた。
でも、それが本当で、それが彼の能力だったとしたら…?
そう思った瞬間、シリルの背にゾクッと冷たいものが流れ落ちる。
それが本当ならこのままでは危険だ。
「先輩!今すぐここを脱出しましょう!」
「静かにしろ…!どうした急に…っ!」
その瞬間、背後から殺気を感じ勢いよく振り返るとそこには金髪の男と青みを含んだ黒髪の女が立っていた。
金髪の男の名は、ルイス。“豊穣の月”No.2である。
そして、黒髪の女はクレア。今最も会いたくない人物だ。
クレアは好戦的な笑みを浮かべ、シリル達を一瞥する。
「こんなところで、奇遇ね?どうかした?」
ケインはシリルを背に隠すと、ジリっと後ろに下がる。
「どうもこうも無いだろ?同じ花の国の仲間が死んでたら、駆けつけるのが普通だろ?」
「普通はそうかもしれませんが、彼女がこんな人目のつかない所で死んでいるというのにどうやって知ったのです?」
ルイスは冷ややかな目で、ジェーンを見た後にケインとシリルに視線を移した。
「何故です?」
「それは…っ」
言葉を詰まらせるケインにクレアが笑い出した。
「それは裏切り者だからでーすっ!今日ここで落ち合って、風の国から逃げ出す算段だった。で、来てみてたら、すでにこの女が死んでた。…でしょ?」
全て見抜かれている。
何故?どこで情報が漏れた?
シリルは緊張のあまり、ゴクリと唾を飲み込む。
どうしたらこの状況を回避できる…?
「シリル」
ケインが名前を呼びながら、シリルに腕を伸ばした。




