友の味
それは、霊安室で拾ったシンシアの鱗。
夢の中でミラに頼まれたもの。
「ミラもベインの事、好きだったんだろうな…」
早く渡してあげたい。
ラーシャは写真立ての前にシンシアの鱗を置いた。
でも今は二人っきりにしてあげよう。
その時、静かに扉が開いてアルスとオルフェが入って来た。
「アルス!!」
ラーシャはベッドからガバッと起き上がると、転げ落ちながらアルスの元に駆け寄る。
「大丈夫!?嫌なことされなかった!?平気!!?」
ラーシャのあまりの必死さにアルスは苦笑すると頷いた。
「大丈夫です、ありがとうございます。ご心配おかけしました」
そう言うアルスをラーシャは驚いたように見つめた。
「アルス…」
【言葉が吃らなくなったな】
ルーキスも気が付いたようで驚く。
ラーシャ達に慣れて最初ほど、酷くはなくなったが、それでも吃っていたアルスが普通に話している。
「父に反抗したら、なんか吹っ切れたみたいで。もう何も怖く無いって言うか…。自分でも不思議なんですけど」
アルスの言葉にオルフェが嬉しそうに頰に擦り寄る。
【アルスが一歩踏み出せてボクも嬉しい】
「ありがとう、オルフェ」
アルスはオルフェを優しく撫でた後、表情を暗くした。
「ここに戻ってくる前に、ミラに会って来たんですけどベインがすごく心配です。…ずっとミラの手を握って涙を流し続けてて」
「そう」
ラーシャは首を横に振ると、無理矢理笑う。
「ナイラもいるし、きっと大丈夫だよ。それに今は心を整理する時間がベインには必要なんだと思う」
「そうですね。…ラーシャはいつもしっかりしていて私も見習わなきゃですね」
【アルス、こいつもさっきまでお前と似たような事をずっと言っていたから大丈夫だ】
「ルーキス!!余計な事言わないで」
せっかくアルスが褒めてくれたのに全部台無しにされた腹いせにルーキスの眉間を指で弾いた。
二人の様子を見てアルスとオルフェは顔を見合わせるとクスクス笑い出す。
「ラーシャとルーキスの顔見てたらなんかホッとしました」
「それはよかった。…ほら、立ち話してないで座ろう」
ラーシャはそう言って、アルスの腕を引いて自分のベッドに腰掛けさせると備え付けの小さなストーブでお湯を沸かしてお茶を淹れる。
「砂糖二つだよね?」
「はい。後、ミルクもお願いしていいですか」
いつもミルクを入れないアルスが珍しいと、作業の手を止めて顔を上げる。
すると、アルスは寂しそうな顔をして微笑んだ。
「ミラはいつも甘いお茶にミルクを入れていたので…今日は私もそれにしようと」
「ああ…なるほど。じゃ、私も」
ラーシャは砂糖もミルクも入れないストレート派だが、今日はアルスに倣ってミラが好んで飲んでいたお茶にしてみる。
「はい」
「ありがとうございます」
ラーシャから手渡されたお茶をアルスは息を吹き掛けて冷ますと、火傷しないよう細心の注意を払って一口飲む。
「…美味しい。ミルク入れるとまろやかになって美味しですね。ホッとします」
「本当だ。お茶が甘いのってあんまり好きじゃ無いけど、ミルク入れると結構美味しいかも」
「ミルク入れなくても美味しいですよ?今度飲んでみてください」
「じゃあ、アルスも今度はストレート飲んでみてね」
「甘く無いお茶はあんまり好きでは無いのですが…。でも、ミルクみたいに意外と美味しって事があるかもしれませんからね。やってみます」
そう言って二人でしばらく笑い合い、落ち着いた頃アルスが口を開いた。




