懸念
「おい、レト」
レトがラーシャ達が会議室を後にするのを、壇上から見送っていると背後からイヴァンに声をかけられた。
「本当に、バルギルザの騎士達全員処罰するつもりか?」
眉間に皺を寄せて尋ねるイヴァンにレトは当然だと言わんばかりに頷いた。
「ええ」
「あの騎士のように、真面目に働いてた者もか?合格する方法が金を払うしか無かったのなら、それは仕方ないだろう」
レトはちょっと驚いて、イヴァンをまじまじと見つめた。
「珍しいですね。イヴァン騎士団長が情けを掛けるだなんて」
「話を逸らすな」
「わかってますよ」
ずっと険しい顔をしているイヴァンにレトはため息をついて肩を竦めさせた。
「真面目に働いている騎士達が哀れなのはわかります。でも、ここで同情している所を見せれば、受験者達に許されると思われてしまいます。ここにいるのは未来の竜の国を守る騎士達です。過ちを許す姿を見せるわけにはいきません。そんな姿を見せれば将来必ずクラウスみたいな者が出てきます」
レトは真剣な表情になると真っ直ぐイヴァンのアイスブルーの瞳を射抜いた。
「もちろん、救済処置はしますよ。これからバルギルザに向かい、真面目に働いていた者、甘い汁を吸っていた者をきちんと精査して処罰します。…そうでなければ、真面目に働いていたものが可哀想ですからね」
その言葉に思わずイヴァンは笑みを浮かべると、レトの頭にその大きな手を乗せてクシャッと撫でた。
「うわっ!何するんですか!?」
「お前も偉くなったな」
「やめてくださいっ!髪の毛がぐしゃぐしゃになるでしょ!あーもう!!」
そう言って悪態を吐きながら、レトは髪の毛を整え直しす。
「偉いんですよ。…全く、国全部の騎士団を統括するのはすごく大変なんですよ?変わって欲しいくらいです」
「よく言う。今の仕事に誇りをもっているくせに。…それで、今年はいつ頃訓練に来るんだ?」
イヴァンの質問にスッと笑みを消したレトは少し考えた後口を開く。
「今年は早めに訓練を行うよう計画を立てています。…女王陛下は兵力の強化に力を入れるそうですから」
「予言か」
銀の虹霓竜、アルゲンが見る予知夢は金の虹霓竜、アウルムとは違い、確定されていない未来。
まだ変えることが可能だが、その可能性は低い。
だがら、今のうちに争いに備えなければならない。




