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竜使いのラーシャ  作者: 紅月
それぞれの覚悟と夢と試験
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自由の象徴

 ニアは針葉樹が密集する森の中で、布を敷いてその上で食後のお茶の時間を楽しんでいた。

 水筒の中に入れた熱々のミルクティーのお茶請けは、サクサクのクッキー。赤い宝石を真ん中に埋め込んだようなジャムクッキーに、ナッツを混ぜ込んだクッキー、メレンゲクッキーなどがある。


「はぁ…。疲れた身体に甘い物が沁みますわね…」


 ニアはメレンゲクッキーを掴むと幸せそうに口の中に放り込む。


「んー、美味しい!」


 何時間も森の中を彷徨っても竜は見つからなかった。


「この森に住んでいた竜はみんな契約されてしまったのでしょうか…」


 あのケルディが情報を間違えるはずが無いし、やはり先を越されてしまったのかも知れない。

 笛を鳴らして騎士団の人を呼んで違う場所に連れて行ってもらおうか…。


「でも、迷惑でしょうしね」


 さっきから何回も笛の音が聞こえる。騎士団もかなり忙しいのが予想できた。


「もう少しここで粘ってみましょうか。絶対黄竜を見つけてみせますわ」


 カップに入ったミルクティーを一気に飲み干し、残ったクッキーを鞄にしまう。

 布についた土を払いながら綺麗に畳んでいると、上空で翼を羽ばたかせる大きな音が聞こえた。ハッとして上を見上げると竜が飛んでいるのが見えた。

 黄竜かも知れない。慌てて布を鞄に押し込んで竜が飛んで行った方に走り出す。

 走りながら、幼い頃に母に読んで貰った大好きだった絵本を思い出す。

 小さなお姫様と黄竜の冒険のお話。小さなお姫様は一人では何も出来なかったけど、ある日出会った黄竜をきっかけに、小さなお姫様はお城を飛び出して世界中を冒険して飛び回るのだ。

 そんな小さなお姫様と黄竜に幼い日のニアは憧れた。いつか黄竜と契約したいと思うようになった。

 黄竜はニアにとって自由の象徴。


「だから、私は黄竜と…!」


 肺が苦しい。ニアは立ち止まって、乱れた呼吸を整えて恨めしそうに空を見上げた。

 空にはもう、竜の姿は見えない。


「やっぱり、追いつけませんわね」


 額の汗を拭いながら、ため息をつく。

 まるで、自分は一生自由には生きれないと言われているような気持ちになる。


「…ふぅ、落ち込んでいても仕方ありませんわ。次を探しましょう」


 気を取り直そうとした時、近くの草むらが激しく揺れた。その事に飛び上がって驚くと草むらをジッと見つめた。

 そしてーーーー。


「ガァァァァァァァァッ!」


 激しい咆哮と共に熊型の魔物、キングズリグが草むらから飛び出してきた。


「ひっ…!」


 ニアが小さい悲鳴を上げると、身体を強張らせる。鼓動が一気に速くなり汗が、ジワッと背中に滲む。


「ガァァァァァァァァッ!」


 頭が真っ白になっていたニアはその咆哮で我に帰ると、背中を向けて一目散に逃げ出した。


「笛…、笛!!!」


 笛を吹いて騎士団を呼ばなければ!でも、笛ってどこにしまったっけ!?


 ラーシャのように首に下げてたわけじゃないし、ポケットにしまった覚えがない。


「鞄!!」


 鞄にしまってあったのを思い出したが、今は探してる場合じゃない。


「どうしてすぐ出せる所に入れておかなかったのでしょう!!」


 笛がなければ助けを呼ぶことは出来ない。振り返ればキングズリグがこっちに向かって走ってきている。

 とてもじゃないが魔物相手に逃げ切れるわけがない。


「木に登って逃げてみましょうか…!?」


 そもそも木に登れないし、キングズリグはその両手に生えた鋭い爪を鉄に変化させてあらゆる物を切り刻む。木に登ったところで爪の餌食になるのは火を見るよりも明らかだった。


「っ!?」


 自分が肉塊になる所を想像した途端、足がもつれてその場に転ぶ。

 振り返ればキングズリグが爪を鉄に変えて、ニアに襲い掛かろうとしているところだった。


「もうダメですわ…!」


 ギュッと目を閉じて、引き裂かれるのを覚悟して身体を小さく丸めてうずくまった。

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