いつか世界の人々にその美しさを広めるために
赤竜はソルに顔を近づけるとその顔を見つめた。
【童にとって余がどんなに魅力的なのか知らぬが、もし余が邪竜と呼ばれる類のものだったどうする?】
「邪竜…?」
【余が人間に災いをもたらすやもしれんぞ?そんな余と契約などして後悔せぬか?美しさだけを求め、その結果が不幸を招く事になっても構わぬか?】
ソルはジッと赤竜を見つめ返した後、苦笑した。
「んー、初対面だし、よくわかんねぇけどあんたが邪竜じゃ無いのはわかる。気性が荒くて喧嘩っ早いのもわかる」
【…何故、余が喧嘩っ早いと?】
「この山登る途中で赤竜の鱗が結構落ちてたんだけど、それってあんたと他の赤竜が縄張り争いとかで、怪我を負わせて落ちた鱗じゃ無いのか?…後はさっきあんたに会った奴が火を吐かれて追い返されたって言ってた」
【ほう…。童はそれを聞いて追い返されるとは思わなかったのか?】
「そんな事考える前に走り出してた。…それに俺が気に食わなかったら、もうとっくに火を吐いて追い出してるだろ?自惚れかも知れねぇけど、結構気に入られてるんじゃ無いかな?って思ってる」
ソルの言葉に赤竜はため息をつく。
【童は変わっておるな。余を見て宝飾品にしたいだとか、喧嘩っ早いなどと言った愚か者は居なかった】
「変わってるって初めて言われた…。愚か者もだけど」
赤竜は肩を竦めるソルを見て笑って後、少し考え込んでから口を開いた。
【汝、我を求めるか?】
その言葉にソルは目を見開く。それは竜が契約をする際に口にする言葉。契約は竜から提案されなければ結ぶことは出来ない。
つまりこれは赤竜がソルと契約をしたいという意思表示。
「求める!俺と一緒に生きよう!俺がお前のその美しさを世界中に広めてやる!絶対に!!」
【汝名は?】
「ソル」
【我の名は?】
竜に名前を与えてやれば契約は終わる。
赤竜は声色からしてメスの竜だと思われた。ソルは少し考えてから頭にパッと浮かんできた名前を与える事にした。
「“ベルナデッタ”…でどうだ?」
不安そうに尋ねるソルに赤竜…ベルナデッタはニィと笑った。
【気に入った。これから頼むぞ、ソル】
「よろしく、ベルナデッタ!!絶対立派な職人になってお前の鱗を最高の宝飾品にして見せるからな!!」
【素材としてしか見られていないような気がするがまぁ、気にしないでやろう】
「あー、早く加工したい…!腕輪もいいし、耳飾りもいいよなぁ」
絶対にコイツ、自分の事を素材くらいにしか考えてないな。と確信してから本当にソルと契約してよかったのだろうかと早くも不安になるベルナデッタだった。