恩返し
リイトはどうしたら真実をみんなに信じて貰えるか考えに考え抜いた。
そして、考え抜いた末に導き出した結果は夕飯の席で暴露するというもの。
試験も終了して後は結果を待つだけになった為、騎士としての仕事が無い受験生達は同時に夕飯を取ることになっている。
そこで、キルディが嘘を言っている事を言うのだ。
【覚悟は出来てるのか?】
相棒のカルリオが少し心配そうな声で尋ねてくる。
「もちろんだ…!こんなの間違ってるだろ!命を賭けてミラを助けようとしてた奴らが、虐げられるのは可笑しいだろ!?」
そう言ってリイトは唇を噛み締めた。
死竜の圧倒的な力を目の当たりにして死を感じたあの時、ミラが捕まっていても残って戦うという選択肢は自分の中には無かった。
死にたくなかった、死ぬのが怖かった。
それはあの場にいた全員が思った事だろう。
それでも、ラーシャ達は死の恐怖よりもミラを助ける事を選んだのだ。
賞賛こそすれ批判されるなど以っての外だ。
「それにそんなの…ミラが望んで無いだろ…!」
せめてもの恩返しにミラが慕っていた彼らを守ってやりたい。
食堂の前に着くと、リイトは深呼吸をしてドアノブに手を掛ける。
【大丈夫か?】
気遣うようにカルリオがリイトの顔を覗き込む。
「ああ…!行くぞ!!」
「それは困ります」
リイトが気合を入れ、いざ食堂へ乗り込もうとした瞬間、声を掛けられるのと同時に肩を掴まれた。
驚いて振り返るとそこには、黒い服を着た栗毛色の髪に眼鏡をかけた少し神経質そうな顔が印象的の男が立っていた。
一ヶ月ここに滞在していたが、こんな男騎士団にいただろうか?
いや、そもそも団服も着てない人物がここにいる事自体可笑しい。
…侵入者だ!
リイトがハッとして叫ぼうとした瞬間、栗毛色の髪の男はリイトの口を押さえ込み声を上げないように封じ込めた。
「貴方に今ここで騒ぎを起こされても困ります。我々の努力が無駄になってしまいますからね」
すぐにこいつが、キルディの手下だと気づき、リイトは顔を青ざめさせた。
口封じに殺されるかもしれない…!
結局、恩返しも何も出来ないままここで死ぬのなんて絶対に嫌だ!!
リイトは抵抗しようと暴れ出すが、その手は一向に離れようとしない。




