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竜使いのラーシャ  作者: 紅月
それぞれの覚悟と夢と試験
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最低な再会

 ぶつかって来た何かはそのまま頭に覆い被さるように顔に引っ付き、首をブンブン振っても離れない。ブチッと嫌な音を立てて笛がついた紐を引きたがられても構ってる場合じゃない。パニック寸前になりながらも、顔に付いたものを掴むと強引に引き剥がして、手に掴んだそれを見てギョッとした。


「は、白竜!?」


 ラーシャに両手で掴まれた白竜はジタバタと暴れている。大きさはアイシャがよくゼンの肩に乗る時のサイズ。人と契約した竜がよくこのサイズでいることは多いが、契約していない野生の竜が危険の多いこの森で小さい姿はまずいない。

 つまりこの白竜は、まだ魔力が安定してない子供の竜なのだ。


「初めて子竜見た!可愛い!!」


 いつも籠で寝ているハクレンと見た目は大差は無いが、子供だと思うと可愛く見えてくるから不思議だ。

 流石に子竜と契約するわけにはいかないが、子供がいるのだから近くにきっと大人の竜もいるはずだ。

 希望が少し見えてラーシャの表情も明るくなった。その時、再び、草むらが動き出す。


「お友達?」


 ラーシャの言葉を無視して子白竜はジタバタ暴れている。


「こっちに来たよな?」

「ええ!間違いないわ」


 聞き覚えのある声に、ラーシャが驚いていると程なくしてフォルテ達、四人組が草むらから出てきた。


「うわ、出た」

「何よ、失礼ね。…ラーシャも試験受けられたのね。他の二人と試験を辞退したのかと思ったわ」

「俺とそう思ってた!」


 シーラ言葉にベインも頷いて笑いながら同意した。


「試験に参加するに決まってるじゃん。馬鹿なの?」

「つかさ、セルジュも参加出来たのかよ?どうせ、あいつただのサボりだろ?」

「サボりじゃ無い!」


 ダルテを睨みつけてラーシャは声を荒げたが、セルジュに何があったのかは言わない。言ったらまたどうせ四人から心無い言葉を浴びせられるのは目に見えてるから。


「おい、ラーシャ。その竜は俺のだ。返せ」


 ずっと黙っていたフォルテが突然、ラーシャが抱えている竜を見てからそう言って手を差し出す。


「フォルテのじゃないでしょ。そもそも、子竜とは契約しちゃいけないって先生が言ってたじゃない」

「誰がそんなチビと契約するか。そいつは俺に噛み付いてきたからどっちが偉いか教えてやってるんだ」


 フォルテの言葉に子白竜が歯をむき出しにして威嚇すると、ラーシャの腕から飛び出して川の下流の方へと走り去っていった。


「あ、ちょっと待って…」


 子白竜を呼び止めようと手を伸ばしたが、その手にべっとりと血がついていることに気づいてラーシャは冷水を浴びせられたように、頭からサッと血の気が引いた。


「あの子に何したの!?」

「だから、教育してやってるって言っただろ?」

「竜を傷つけるのは大罪だよ!?」


 ラーシャに怒鳴られてもフォルテは鼻で笑うだけで、怒りも反省もしていない。


「じゃあ、セルジュも犯罪者だな」

「セルジュは今は関係ないし、犯罪者でもないわ。あんたと一緒にしないで!!」


 ラーシャは吐き捨てるように言うと、血の付いた手をギュッと握りしめると子白竜が逃げていった方へ走り出した。


「本当にアイツっていちいち突っかかってきてウザいよな…。フォルテ、どうしたんだよ?」


 突然フォルテがしゃがみ込み、ベインが不思議そうに近寄ると手に何かを持っていた。


「えー、なになに?笛??」

「誰のだ?」


 フォルテはニヤリと笑う。


「一人しかいねぇだろ」

「ラーシャか」


 ダルテはそう言ってラーシャが走って行った方を見る。


「どうする?今追いかければ追いつけると思うけど」

「何言ってんだ。落とす方が悪いに決まってんだろ」


 フォルテはそう吐き捨てると川に向かって笛を投げた。笛は綺麗な弧を描いてポチャン、と音を立てて沈んで行く。

 それを見てフォルテ以外の三人が顔を青ざめさせた。あの笛は魔物に襲われた時助けを呼ぶための命綱だ。それを捨ててしまうのは、見殺しにするのと同じ事。


「それはちょっと…」


 シーラが咎めようとすると、フォルテに睨まれ押し黙る。


「俺に逆らうのか?」

「別にそんなんじゃ…」

「興が醒めた。俺はこの川を登って竜を探す。お前らは勝手に竜を探せ」


 フォルテはつまらなそうに言い捨てると、三人を置いてさっさと上流の方へと行ってしまった。


「どうする?」


 ベインの言葉にダルテが肩をすくめた。


「追いかけても、邪険にされるだけだからな。ここは大人しく自分の竜を探した方がいいな」

「ごめん、私が機嫌悪くしちゃったから」

「気にするなよ。試験終わればまた機嫌治ってるだろ。それに俺たちも竜を探さないと」


 ダルテはそう言ってシーラの肩をポンポンと叩く。


「じゃあ、とりあえず俺たちも別れようぜ」


 そう言って三人もバラバラに別れ森の中の探索に戻る。子白竜を傷つけた事とラーシャの笛を捨ててしまったことに対する罪悪感を胸に。

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