薔薇色
キルディは同じバナナチームの男、二人を引き連れて駐屯所の霊安室の前に来ていた。
連れて来た二人は顔色が悪いが、それでいい。
顔色が悪い方が周りが勝手に想像を膨らませて同情してくれる。
キルディは鼻で笑った後、すぐに辛そうな表情を作り扉をノックした。
扉はすぐに開き、中から目を真っ赤に腫らした女が出て来た。
「はい…」
「こんな時に申し訳ない。…ミラとシンシアに冥福を祈りたいんだ。入れてもらえないか?」
そう言えば女は少し考えた後、扉を大きく開き中に招き入れてくれた。
ミラと同郷の女、確か名前はイルゼだったか。
ミラと仲が良かったらしく、彼女が死んだと聞かされた時は酷く取り乱していたからよく覚えている。
イルゼのようなチョロい人間がいてくれてよかった、とキルディは心から思う。
ラーシャ達が死竜と戦うと言い出して、ミラがその犠牲になったと伝えたら、イルゼが泣きながらラーシャ達が非道な人間だと周囲に訴えてくれた。
おかげでキルディ達はすっかり被害者で同情されるべき人間だと思われている。
キルディはミラとシンシアが寝かされている寝台の前に来ると、サッと跪き深く俯く。
「すまないミラ、シンシア…」
わざとらしく声を震わせて消え入りそうな声で言うと、イルゼが声を上げて泣き出した。
聞いているだけで、胸を引き裂くような悲痛な泣き声にキルディは肩を震わせた。
あぁ…、なんて…。
なんて…!
なんて気持ちいいんだろう…!!
まるで悲劇の物語の主人公になったような感覚にキルディは酔いしれる。
弱き者を助けてやれなかった悲劇のヒーロー。
全て自分にとって良い方向へと、順調に事が進んでいる。
あまりにも順調過ぎて、自分が神に愛されているとしか思えない。
この後、試験が終わればバルギルザに戻り騎士団長をしている父親の元で騎士団長見習いとしての座が約束されている。
騎士団長見習いは騎士団長とほぼ同等の権限があり、わざわざ危険な魔物退治や密猟団と戦わなくて済む。ただ、安全なところで部下である騎士たちに指示を出すだけでいいのだ。
薔薇色の人生とはまさにこの事。
イルゼがいなければ、笑いだしているところだ。
必死に笑いを噛み殺していると、ノックする音が聞こえた。




