笑って
「ごめん、ミラ。あなたにそんな顔させたかったわけじゃない。…一番辛いのはミラ達なのに自分の事しか考えてなくて…本当にごめん」
ラーシャは深く頭を下げてから、顔を上げて笑顔を作る。
その目から涙が絶え間なく流れ続け、ひどく歪な笑みだが、それでもミラが望むなら無理にでも笑おう。
「私、絶対ルーキスと竜使いになるから。…ミラとシンシアの分まで頑張るから!だから…っ」
“見ていてね”
その言葉が喉に詰まって出てこない。
それでも、ミラには伝わったようでミラも涙を流しながら笑って頷いた。
「約束よ」
「やく、そく…するっ…!」
二人が約束を交わすと、シンシアが悲しそうな顔をして口を開いた。
【ミラ、そろそろ時間だねぇ】
「そう。…今度こそお別れだね、ラーシャ」
ミラがそう言った瞬間、ラーシャの目の前の世界がまるで鏡が破れたかのようにピシッと蜘蛛の巣状に亀裂が走る。
「なに、これ…!」
ラーシャが驚いて後退ると、今度は足元にも亀裂が走る。
「みんなの元に帰る時間よ、ラーシャ」
その言葉にハッとしてラーシャは慌ててミラの元に駆け寄ろうとした刹那、足元がパリンッと音を立てて割れた。
足場を失ったラーシャは暗闇へと投げ出され落ちて行く。
今度こそこれが最後だ。
伝えたい事は全部伝えないと…!
「ミラ!私、ミラに会えて本当によかった!!大好きだよ!ミラ!!一生忘れないから!!!」
力の限り叫ぶラーシャを見て、崩れ行く世界の中でミラが涙を拭いながら何度も頷く。
「私も、ラーシャに会えて良かった…!貴女と過ごしたこの期間は私の宝物だわ。…大好きよ、ラーシャ!!…ふふ、今度は忘れないでね?」
「ず、ずっと覚えてたわ!!」
「嘘おっしゃい!」
再会した時の事を思い出して二人は声を上げて笑う。
「ねぇ、ラーシャ。最後に一つ伝言、お願いできる?」
落下しながらラーシャはミラの伝言を聞く。
世界の欠片が散らばっていく中、ラーシャはミラの願いを聞き入れて静かに目を閉じた。
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暗闇の中で聞き覚えのある声がする。
「…だって…!…キス!」
【…シャが!…れば!】
「お…つけ…!…ない…」
何を言っているのか、全くわからないが誰か喋っている。
誰が喋っているのだろうと、ラーシャはもがくようなイメージで暗闇の中でバタバタと身体を動かして、なんとか暗闇から脱出しようと試みた。
そして、ようやく石のように重い瞼をゆっくりと開くことに成功して最初に見たものは、大きく開かれた口だった。
「へ!?あ、何!?」
叫びも虚しく、綺麗に生え揃った歯を怪しく輝かせながら、その口はラーシャの頭を咥え込んだ。
「きゃあああああああああああっ!」
ラーシャの人生の中で最も最悪な目覚めとなった。




