それぞれの試験に向けて
「さて、セルジュの怪我も治ったし君たちは試験にそろそろ参加した方がいい。時間は待ってはくれないからね。セルジュはそのままの状態は嫌だろうからシャワーを浴びて、先生が用意してくれた着替えと朝食を済ませ次第、試験に参加するといい」
デイルの言葉に真っ先に動いたのはフラウだった。フラウはすぐにセルジュの元に駆け寄ると、アルボルの唾液をものともせずに手を貸し立たせた。
「じゃあ、行こうか」
セルジュはコクンと頷くとラーシャ達の方を見て小さな声で、ありがとう、と呟くとフラウと共に小屋へと歩いていく。
その耳は真っ赤に染まっていた。それを見て、ラーシャ達は顔を見合わせて笑う。
「ほら、お前達もそろそろ試験に行かないとな。希望の竜がいるなら、その竜の生息地まで連れて行ってやるけど」
ゼンの言葉にニアとソルが目を輝かせる。
「じゃあ俺、赤竜がいるところまで!」
「私はこの場所にお願いします」
ニアに手渡されたのは昨日、ケルディにもらった黄竜の生息場所のメモ。それを見ながらゼンが頷く。
「了解。試験を受ける生徒を希望の場所まで送り届けるのも騎士団の立派な務めだからな!任せとけ!アイシャ、もう一仕事頼む」
【もちろん、私も騎士団だもの。任せて】
「ラーシャはいいのか?」
「うん、私はどんな竜にしたらいいかわからないから、ソルの言う通りその場のノリで決めようかな。だからここからスタートでいいよ」
「そうか…。じゃあ気をつけろよ」
ラーシャの頭をポンポンと撫でると、ゼンはアイシャの背中に乗る。
「ソル、ニア、行くぞ」
二人は頷くとラーシャと向き合った。
「じゃあお前も頑張れよ」
「ありがとう、ソルもね」
「素敵な相棒と出会ってまた会いましょう」
三人は頷き合うと拳を突き合わせた。それから二人はアイシャに乗せてもらい空に飛び立って行った。
それを見送るとラーシャは一人力強く頷く。
「よし!私も頑張らなきゃ!!」
「きっと最高の相棒が見つかるよ、頑張れ」
デイルがそう言ってラーシャの背中を軽く叩く。
「ありがとうございます!ところで団長さんの竜は?」
そう言えばずっと見ていない気がする。そんなラーシャの疑問にデイルは笑って答える。
「今、絶賛喧嘩中でヘソを曲げて一人で家に閉じこもってる」
「え!?」
「でもそろそろ機嫌を直してこっちに来るんじゃないかな?」
「わかるんですか?」
「付き合いが長いからね」
こういう風に言える関係っていいな、と思う。その時、空から声がして上を見上げると茶竜がいた。
「団長ー!生徒が魔物に襲われて背中を怪我しちゃったんですけどー!」
どうやら騎士団の人のようだった。その声を聞いて小屋からレミが出てくる。
「じゃあそのままアルボルの口の中に放り込んで置いて。それで治るから」
その言葉にギョッとしてラーシャが振り返ると、レミがそのまま小屋に戻っていくところだった。
「了解っ!じゃあ、行きますよー」
【オッケー!】
下で待ち構えるアルボルが再び大きな口を開けるそれからすぐに茶竜から人が投下された。
「え、ちょ、待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
生徒の悲鳴はアルボルの口の中に吸い込まれて行った。
今回は粋がいいね、とか言いながら口の中で、生徒を飴玉のように転がす。
ラーシャはその光景を顔を引き攣らせてみながら、デイルにお礼を言って森の中へとそそくさと入っていく。
竜に食われるというトラウマを植え付けられた憐れな生徒に同情しながら。