代わりに
受け止めた衝撃で腕が悲鳴を上げるが、そんな事は気にしていられない。
腕の中で顔を真っ青にさせて、ぐったりとしているミラの胸が上下しているのを見てラーシャが安堵していると通信石からベインの声が聞こえて来た。
『ラーシャ!ミラさんは無事か!?』
「大丈夫!ちゃんと受け止めたし、息もある」
『良かった…!』
声を震わせてベインはそう言って、鼻を啜った。
『ラーシャ、ミラさんを安全な所へ連れて行ってくれ!!シンシアは俺とナイラが助けるから、お前はミラさんを頼む!』
「わかった!!」
ラーシャは頷いてすぐにミラを抱えて走り出す。
この狭い空間に安全な場所など無いが、中央にいるよりも隅にいた方がまだ安全なはずだ。
「ミラ、もう大丈夫だよ」
ラーシャはそう言ってミラをヴァルリアが、張った障壁の隅へ移動すると雪の上に寝かせた。
両腕、右の太もも、腹が突き破られて血が溢れ続けている。
とにかく今は血を止血しなければならない。
ラーシャは自分が羽織っていたケープを脱ぐと、持っていたナイフで一気に裂き、帯を何枚か作りそれを傷口に強く巻いて圧迫しながらきつく締めて止血して行く。
一番怪我が酷い腹は、ラーシャ自らが両手で強く押さえつけて止血を試みる。
「ら…しゃ…」
脂汗をかき、顔を真っ青にさせてミラが震える声でラーシャを呼ぶ。
「ミラ?大丈夫だよ。もう大丈夫だからね」
そう言いながら、ラーシャは声が震えないように細心の注意を払う。
どんなに傷口を強く抑えても血が止まる気配がない。
ケープだった包帯は元は青だとわからない程に赤黒く染まっている。
どうしよう、このままじゃ…。
そんな不安をミラに感じさせるわけにはいかない。
なんとか平常心を保とうとしていると、ミラが震える唇を動かして何か言っている。
「…とう」
「え?」
あまりにも小さな声にラーシャは、ミラの口元に耳を寄せる。
「たす、けに、きてくれ…て、ありがとう…」
ラーシャは目を見開いて、ミラから顔を離すと微笑んだ。
「当たり前じゃない!!私たち友達でしょ?ベインだってそう言うに決まってる」
「…う、ん。ベイン、にも言って、おいて…」
「ダメだよ。こういうのは自分で言わないと」
ラーシャがそう言うとミラが弱々しく笑った。
「い、えない、から、お願いし、てるの…」
「そんな事ないでしょ。ちゃんと言って」
ミラは辛そうに顔を歪めながら、止血しているラーシャの手に自分の手を重ねて首を横に振った。
「自分の、身体は、じ、ぶんが…っ、よくわかっ、てる…も、う、私は、助から、ない」
「そんなこと…!!」
ラーシャは言葉を詰まらせた。




