譲れないもの
「死ぬ気は無いが、俺とナイラも加勢するぜ」
【あっし達も仲間に入れてくだせぇ】
そう言ってルーキスの隣にベインとナイラが並びラーシャは驚いて目を見開く。
「本気?」
「当たり前だろ!お前らだけに任せてられるか!ミラさんを絶対に助ける!!」
ベインはグッと拳を握りしめて未だに囚われているミラを見つめる。
早く助け出さないと手遅れになってしまう。
焦燥に駆られながら、ベインは気持ちを落ち着けるように深呼吸を繰り返す。
焦っても良いことは何も無いと自分に必死に言い聞かせながら。
「ららら、ラーシャ…!わ、私も…!」
震えながらオルフェと共に来たアルスにラーシャは優しく微笑むと首を横に振る。
「大丈夫だよ、アルス。気持ちはわかってる。怖いのに一緒に戦おうとしてくれてありがとう。でも、アルスはオルフェと逃げて」
「でも…!!」
涙をボタボタ落としながらアルスが食い下がるが、それでもラーシャは首を横に振った。
「ダメよ、アルス。キルディ達と戻ってこの事をイヴァン騎士団長に伝えて。きっとキルディは助けなんて呼ばないだろうから。…お願い出来るのはアルスとオルフェだけなの。お願いね」
ラーシャにそう言われて、ようやくアルスは頷いてオルフェに乗り込む。
ラーシャは障壁の向こうのミラとシンシアを見て目を閉じた。
『試験に受かっても受からなくてもいいの。無事に帰ってらっしゃい。私の願いはそれだけよ』
ごめん、おばあちゃん。
『いいか?絶対に…絶対に死竜と遭遇したらなりふり構うな?逃げろよ。全力で逃げろ!わかったな?』
ごめん、ゼン兄。
『君たちはまだ騎士団の一員じゃない。だから、誰かを助けるために自分の命を掛ける必要は無いんだよ。だから、もしも勝ち目が無いと判断したらその時は助けを呼んで逃げなさい。命を掛けて民を守るのは我々騎士団の使命でまだ君たちの使命では無いのだから』
すみません、デイル騎士団。
ラーシャはギュッとソルとニアが贈ってくれた、魔石のペンダントを握りしめた。
無事に帰って来て欲しいと願って贈ってくれたのに、無事に帰れないかもしれない。
みんな、無事を祈ってくれたのに。
それでも、みんなの願いを裏切る事になったとしてもこれだけは譲れないから。
ラーシャは覚悟を決めて目を開く。
その時、セルジュの顔が思い浮かんだ。
「そうだ…セルジュなら…。ルーキス!上に光を撃って!!」
ルーキスはその言葉に従って、真上に光線を撃つ。
眩い光の柱を眺めてラーシャは頷いた。
全ての準備は整った。
ラーシャは通信石に触れる。
「聞こえてるでしょ、やって」
吐き捨てるようにラーシャがそう言うと、障壁が消えた。
「行こう」
ラーシャ達はミラとシンシアを助け出す為にすぐに走り出す。




