弄られる者
ラーシャがミラの愚痴を聞かされている間、ベインとセルジュが他の露店を見てくると行ってから少し経った頃、ようやくアルスの買い物が終わった。
「お、お待たせしました!」
満面な笑みで紙袋を抱えてアルスと共に露店から出ると、ラーシャはアルスの抱える紙袋を見て首を傾げる。
「結構買ったね!何買ったの?全部装飾品?」
「いいえ、これは全部クズ石です。これに自分で文字を入れようと思って。もし、上手くできたらお二人にお送りしますね」
アルスの言葉にラーシャ達は嬉しそうに頷く。
「すごく楽しみにしてるわ!」
「出来ればアルスが石刻してるところ見たかったなぁ」
アルスは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして首をブンブン横に振った。
「み、みみみみ、見せられるようなものじゃ、ないので…!い、いい家に帰ったらつ、作りますね…」
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに」
ラーシャがそう言って苦笑していると、セルジュ達も戻ってきた。
「買い物終わったか?」
「ええ。ベイン達はそんなに袋持って何を買ってきたの?」
ベインとセルジュが二人で両手に大きな袋をぶら下げているのを見て、不思議そうな顔してミラが尋ねる。
「これは、第八騎士団の先輩達のお土産です。俺一人じゃ何にしていいかわからなかったので、セルジュにも選んで貰ったんですよ」
「で、何にしたの?」
ラーシャが目を輝かせて尋ねると、ベインは少し得意げに袋から箱を取り出して、ラーシャの目の前に突き出した。
「メレンゲクッキー?」
「そうだ!スノウコルドの雪をイメージして作ったらしいぜ!いいだろ!」
「…もうちょっと、スノウコルドっぽいお土産無かったの?」
「文句あるならお前がこれを返品して買ってきてもいいんだぞ?」
「メレンゲクッキー、すっごく美味しそう!!いいじゃん!!」
慌ててラーシャが取り繕うのを見て、ベインは冷ややかな視線を送る。
「まったく、調子いいやつだな」
「まぁ、ラーシャだから」
「二人ともちょっと失礼じゃない?」
ラーシャがムッと頬を膨らませると、その頬をミラが指でツンツンして潰すと笑い出す。
「ラーシャは揶揄い甲斐があるのよ。すごく面白いもの。私も騎士団の先輩のお土産それにしようかな?ねぇ、ベイン案内してもらえる?」
「も、もちろん!!い、今すぐ案内しますっ!…ラーシャこれ持っててくれ!!」
「はぁ!?ちょ、ちょっと!!」
ベインはラーシャに騎士団のお土産を無理矢理渡すと、ミラの手を引いて足取り軽やかに行ってしまった。
「やるな、ベイン」
「はわぁっ…」
セルジュが感心したように頷き、アルスが顔を赤くして二人の背中を見送る中で、ラーシャだけが首を傾げる。
「ただ露店を案内するだけなのになんでそんなに二人とも絶賛してるの?」
「え!?ら、ラーシャわからないんですか!?」
「アルス」
驚愕するアルスにセルジュが耳打ちをする。
セルジュの話を聞きながら、残念そうな目でラーシャを見る始末。
「本当になんなの!?ねぇ!そんな目で見ないでよ!!」
「大丈夫だ、ラーシャ。お前には一切関係ないから」
「絶対あるでしょ!アルスがすごい残念そうに見てたもん!」
「わ、私は関係ないですよ!」
アルスが全力で否定しながら、ラーシャから一歩離れる。
あまりにも怪しいアルスにラーシャが一歩距離を縮めて聞き出そうとすると、その間にセルジュが割り込みラーシャが手に持っている袋を受け取った。
「ほら、俺が荷物持ってやるから他の露店に行こう。まだゼン兄やソル達のお土産買えてないし」
セルジュの言葉にラーシャはハッとして頷いた。
「そうだ!忘れてた!!早く買わないと時間切れになっちゃう!!」
ラーシャの気をなんとか逸らす事にし成功した二人は、気づかれないようにそっと安堵のため息を溢した。




