夢を諦めるなんて出来ないから
アイシャのおかげで、すぐにセルジュの家に着いた。
そっとアイシャに下ろしてもらい、ラーシャ達はすぐに扉の方へと走り出そうとしたがゼンに止められた。
「お前達はここで待ってろ」
「私たちも行く!」
「ダメだ。アイシャの背中の上で待ってるんだ。いいな?」
「待って!」
家の中へ入ろうとするゼンを引き止めて、一緒に行く、と伝えようとしたその瞬間“バリィィィンッ”とガラスが割れる音が響き渡った。
その場にいた全員が凍りつくが、ゼンがすぐに我に返ると扉を開けようとするが鍵が掛かってて開かない。舌打ちをするとなんの躊躇もなく扉を蹴り破った。
「俺の言いつけちゃんと守れよ!」
「ゼン兄!!」
家の中へ入っていくゼンの後を追おうとしたラーシャの手をニアが掴む。
「ダメですわ!ここでお二人を待ちましょう!私たちが行ったところで足手まといになるだけですわ!」
「それに、もしも何かあった時アイシャに乗って助けを呼べるのは俺たちだけだ」
ラーシャはニアとソルの顔を交互に見比べた後、渋々頷いた。
「そう、だね。…アイシャ、背中に乗せて」
【どうぞ。しっかり紐を固定してね】
アイシャに促されながら、三人は背中の上になるとおとなしくゼン達の帰りを待つ。
今の音が何でもないことを祈りながら。
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しばらく笛を吹いていたが息が続かなくなり、笛から口を離す。
「はぁ、はぁ…もう一回」
助けが来てくれるまで何度だって吹いてやる。
そう思ってもう一度笛を吹こうとした刹那、襟を強引に掴まれ無理矢理窓から引き剥がされるとそのまま床に叩きつけられた。
「何してる!?」
「…っ!」
叩きつけられた衝撃で目がチカチカするがなんとか焦点を合わせて鬼の形相で自分を睨む父の姿を捉えた。
やっぱりバレた。あんなに大きな音を出せば当然だ。
「俺は試験を受けたい…」
「受けさせないと言っているだろうが!」
「俺は受けたい!!」
セルジュは立ち上がって今まで出した事のないような大声で叫んだ。
「俺だって竜と一緒生きたい!父さんみたいに騎士団長になりたいんだ!」
その言葉にリライは顔を真っ赤にさせてセルジュの頰を強く打つ。
「俺から妻も竜も奪っておいて何偉そうなことを言ってんだ!いいか覚えておけ!お前には一生竜と契約はさせねぇ!俺からお前が奪ったんだ!絶対に許さねぇ!」
頬の痛みとリライの言葉がジンジンと頭を締め付けてくる。
母さんが死んだのも父さんの自慢の相棒だった黒竜、ジキルも全部自分のせいで死んでしまった。
母さんもジキルも死んで父さんがどれだけ苦しんできたか、ずっと見てきたから知ってる。全部自分が悪いから、暴力の矛先が自分に向かうのはしょうがない。しょうがないっていつも自分に言い聞かせてきた。
リライを睨みながらボロボロと涙が溢れる。
もう…我慢の限界だ。
笛をギュッと握りしめる。
「俺があの時あのまま死ねば、父さんはこんなに苦しまずに済んだの?」
「なんだって?」
「…無理だよ。全部俺が悪いってわかってる。何も望んじゃダメだってわかってる。でも、無理だよ…。頭でわかってても竜を見る度に、昔の事を思い出す度に竜が欲しい、騎士団長になって活躍したいって思っちゃうんだ。こんな俺が近くにいたら父さんが今よりもっと苦しなるって言うなら…!」
手に握ってた笛を近くにあった鏡に叩きつけた。
“バリィィィンッ”耳をつんざくような音を立てて鏡が砕け散る。
「な!?」
驚いて声を上げるリライをよそにセルジュは何の躊躇いもなく鋭く尖った鏡の破片を握りしめると、自分の首に突き付けた。
「夢を諦めるなんて俺には出来ない!でもそのせいで父さんがもっと苦しむって言うならここで死ぬよ!!」




