市
次の日、朝の任務に向かう前にロベリエを誘ってみたのだが任務が終わった後はリヒターの元に行く予定だと断れてしまった。
前の日が深夜勤だったセルジュに合わせて、お昼過ぎからラーシャ達は市へと繰り出した。
「スノウコルドの市って結構規模がでかいんだな」
ベインがそう言って感心した様に周りをキョロキョロしながら言った。
市は駐屯所が真逆の方の広場で行われていて、一種のお祭りの様になっている。
露店が所狭しと並び、雑貨から食い歩きが出来るような飲食も売られていた。
「すごい賑やかね。これならお昼食べないで来て食べ歩きでも良かったかもね」
【ラーシャ、オレはまだ食える。だから、エルキスクの串焼き買ってくれ!!】
ルーキスが興奮気味にラーシャの肩を叩きながらおねだりをする。
「エルキスク!?どこどこ!?」
エルキスクと言えば大型のイカの魔物で凄く美味しいと聞く。竜をも捕食する危険な魔物のため、あまり市場には出ない。
そのエルキスクの串焼きが売っているとなると食べてみたくなる。
ルーキスが頭で示す露店からは、香ばしい醤油の匂いがしてお腹いっぱいでも食欲をそそる。
「わ、私の分も買おうかな…美味しそう」
醤油で焼かれたエルキスクの誘惑には勝てずに、ラーシャは二本串焼きを購入するとルーキスと早速頬張る。
香ばしい醤油の味とエルキスクの甘さにグニグニした食感が最高に美味しい。
【うまいな】
「美味しい!」
ラーシャとルーキスが美味しそうに食べている隣でミラが引いている。
「お昼食べたばかりでよく入るわね」
「美味しい物は別腹!ミラも一口食べてみなよ!はい、あーん」
「あ、あーん」
促されるまま一口だけ貰うとミラは目を見開いた。
「美味しい…!」
「でしょー!」
【美味しそうだね。あたしにも一口よこしなさいな、ルーキス】
【これはオレのだ。欲しかったら買ってもらえ】
【ケチ臭い子だね。ミラ、アタイにも一本買っておくれよ】
シンシアはルーキスを軽く睨みつけると、早速ミラにおねだりをして買ってもらう。
それを見て他の竜達も一斉におねだりをしてエルキスクの串焼きを買ってもらってみんなで仲良く頬張りながら、市を練り歩く。
「ソル達にお土産買って行きたいな」
セルジュの言葉にラーシャは頷いた。
「そうだね、お土産一緒に選ぼうよ。後は…おばあちゃんにゼン兄にも買って行って…。後は師匠にも買って行ったほうがいいよね?最後、訓練に付き合ってもらったし」
「師匠にも…そうだな」
【ラーシャ】
ニクスがラーシャの顔の前にヒラリと飛んで、名前を呼ぶ。
「どうしたの?」
【師匠へのお土産はセルジュに選んでもらったほうがいいと思うんだ】
「ニクス!余計な事、言わなくていいから…!」
【余計な事じゃないよ。ラーシャはゼンのお土産を選んでもらってベインには騎士団のお土産を選んで貰えばいいんじゃないかな?】
「え!?俺も?」
関係ないと話を聞き流していたベインが慌てて自分を指差すと、ニクスは当然とばかりに頷いた。
【みんなでお世話になってるんだから当たり前でしょ?】
「そりゃあ…そうだけど…。うぅ…はい。じゃあ、オレは騎士団の先輩達のお土産を選ぶ」
ニクスに断ることを許さない笑みを見て、ベインは渋々頷いた。
【じゃあ、セルジュは師匠に買うで決まりだね】
「…わかったよ」
セルジュが諦めたように頷くとニクスは嬉しそうに笑った。




