助けを呼ぶ音色
アイシャは校庭に降り立つと、二人が降りやすいように身を屈めた。
「ありがとう!」
ラーシャは竜紐の金具を外すと、ピョンっとアイシャから降りた。
【どういたしまして。ラーシャ、頑張るのよ】
「うん!ゼン兄もありがとう!行ってきまーす!!」
元気よく手を振って集まっている生徒たちの方へと走っていくラーシャを見送ると、ゼンはアイシャから降りた。
「さて、俺たちも行くか。今日は忙しいぞ」
【ええ、そうね!張り切っていきましょう】
身体を小さくしてしてゼンの肩に乗るとアイシャは楽しそうに言う。
ゼンは頷いて騎士団が集まっている方へと走り出した。
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「おはよう!ソル、ニア!」
集まっている生徒たちの中から、二人を見つけるとラーシャは声をかけながら駆け寄る。
「おはようございます、ラーシャ」
「今日は遅刻しなかったな」
ゼンの言葉にラーシャは眉間に皺を寄せる。
「昨日だけだもん!遅刻したのは!!…いて」
反論している途中、背中に何かが思いっきりぶつかり振り返ると、そこには不機嫌そうなフォルテがいた。
「邪魔だ、幅とってんじゃーねよ」
「なっ!?」
ラーシャが言い返す前にそう吐き捨てると、フォルテはクスクス笑うダルテ、ベイン、シーラを引き連れ行ってしまった。
「何よ!すごく失礼しちゃう!」
「落ち着けよ、どうせ昨日の腹いせだろ?」
「だけどさ!」
顔を真っ赤にして怒るラーシャをソルが宥める。
「今日は何故かとても機嫌が悪いんですの。…ほら、三人もフォルテの機嫌を取るので必死ですわ」
ニアに言われてフォルテの方を見ると、確かにダルテ達が笑いながら必死にフォルテに話しかけていた。
「昨日のであんなに引きずる?」
「家でなんかあったんじゃねーの?」
「ふーん?」
「フォルテの家も竜の国では二番目に大きな貿易商の家ですから。もしかしたら、契約する竜について何か言われたのかもしれませんわ」
「え、ニアも何か言われたの!?」
ラーシャの質問にニアはにっこり笑うが何も言わない。ただ何かあったというのはわかった。
今はきっと言いたくないのだろう。だから、ラーシャも何も言わないし何も聞かないで、ただ笑った。
もし、話せる時が来たら話してくれるように。
「おーい、みんな集まってるな。少し早いが点呼とるぞ」
そう言って担任のフラウが生徒の名前を呼び、それに生徒達が返事をしていく。
名前を呼ばれる順番を待ちながらラーシャはセルジュの姿を探す。だが、どんなに見回してもセルジュは見当たらない。
「ねぇ、セルジュいないよね?」
「そういえばいないな。また遅刻か?」
ソルも一緒にキョロキョロ見回すが、見つける事ができない。
「流石に今日は遅刻しないと思いますけど…。時間まで五分ですわね」
ニアはそう言うが、少し不安そうな顔をする。こう言う時は大体みんな早めに集まるのに。
「ニア」
「はい」
「ソル」
「はーい」
「ラーシャ」
「…」
セルジュがいないことに気づいてから、嫌な予感がする。
「ラーシャ!」
「は、はい!」
慌ててラーシャは返事すると手を上げた。
「先生!!」
「どうした?ラーシャ」
「セルジュがまだ来てません!」
「確かに…他の奴らはいるが…まだ、あと五分あるしな」
フラウはセルジュがまだいない事に特に不思議に思ってないらしい。昨日も遅刻してるから無理はないのかもしれない。
本当に時間ぴったりにくるのかもしれない。
でも…でも…!
“ビィィィィィィィィィィィッ!!!”
空を切り裂く高い笛の音。
「誰だ?笛吹いたやつ?」
「他校の子かな?」
「今頃、先生に怒られてるな」
生徒達がそう言って笑っている。
「…違う」
ラーシャはポツリと呟く。
他校の生徒の悪戯なんかじゃない。これはきっとセルジュだ。
きっとセルジュが助けを求めてる笛の音だ!
「先生!!これはセルジュです!何かあったんだ!!私、セルジュの所に行ってきます!!」
「は!?ま、待て!まだセルジュだって決まったわけじゃない!待ちなさい!ラーシャ!!」
ラーシャはフラウの声を無視して走り出す。
ソルとニアも顔を見合わせると手を挙げる。
「先生!俺たちも行ってきます!!」
そう言って二人もラーシャの後を追う。
「あぁ、もう!!俺も行くから待て!」
走り出そうとするフラウの手を第八騎士団団長、デイルが引き止めた。
「先生、もうすぐ試験が始まります。先生まで居なくなってしまっては他の生徒達が不安になります」
「し、しかし…」
「試験は他の学校と合同で開始時間も延ばせません。それにもうすぐ時間です。あの三名は私たちに任せて他の生徒と共に移動してください」
フラウは少し迷った後頷いた。
「わかりました。お願いします」
「お任せください。ゼン!!」
デイルに呼ばれてゼンが一歩前に出る。
「さっきの子はお前の妹だな?…お前が責任を持って四人の生徒を森の中央広場まで連れてくるように」
「承知しましたっ!」
ゼンは姿勢を正し敬礼をした後、すぐに走り出す。
「アイシャ!」
【ええ!】
アイシャが身体を大きくすると、ゼンはその背中にに飛び乗る。
アイシャはブンッと音を立てて翼を大きく羽ばたかせ一気に加速すると前を走るラーシャ達三人を抱えて高く飛び立つ。
「うわっ!アイシャ!?」
急に浮き上がり驚きながらラーシャはアイシャを見上げた。
「ラーシャ!!このままセルジュの家に向かうぞ!」
「うん!」
「アイシャ、セルジュの家はわかるな!?」
【任せといて!!】
アイシャは答えるとさらに加速させた。




