夜の散歩
そこにはニクス乗ったセルジュがいた。
「セルジュ…あれ、今日は準夜勤でしょ?」
「さっき終わったところ。今はニクスと夜の散歩中だった。…ニクスは夜が好きだからな」
セルジュがニクスから降りてそう言ってラーシャの前まで来ると、首を傾げた。
「ラーシャこそどうした?こんな時間に」
「全然寝れないから夜の散歩中」
「腕の中で爆睡してるルーキスを連れてか?」
セルジュの質問にラーシャは肩を竦めた。
「ルーキスが一人だと危ないから付いて来るって聞かなかったのよ。結局寝ちゃったけどね」
「なるほど。…でも、その格好で夜の散歩はどうかと思う。風邪を引く気か?」
そう言ってセルジュは着ていたケープを脱いでラーシャに掛けてやる。
「え!?いいよ!!セルジュが寒いでしょ!?」
「俺はさっきまで動いてたから、そんなに寒く無い。でもラーシャはどう見ても寒そうだから」
「でも…」
「いいから」
一歩も引かないセルジュに根負けして、ラーシャは頷いた。
「ありがとう、セルジュ」
笑ってお礼を言えば、セルジュも満足したように微笑む。
その時、ラーシャの腕の中でルーキスがもぞりと動いた。
「あ、起きた?」
【…ニクスの気配を感じる…】
眠そうに何回か瞬きをしているルーキスの前にニクスが飛んで行き、顔を近づける。
【おはよう、ルーキス】
【…!?なんでお前がここにいるんだ!!】
ルーキスはラーシャの腕の中から飛び出すとニクスから逃げ出す。
【ルーキス、逃げることないんじゃないのかい?】
【寝起きでお前の顔見たら驚くだろう!】
【お兄ちゃんに向かってそれは酷くない!?】
ニクスは不満そうにそう言ってルーキスの後を追い掛ける。
頭上で始まった追いかけっこを見て、ラーシャとセルジュは顔を見合わせて笑う。
「あーぁ、セルジュにこうやって会えるならもっと早く夜の散歩してればよかったな」
ラーシャの言葉にセルジュは驚いて目を見開く。
「え?」
「だって、試験始まってからセルジュとあんまり話せなくて寂しかったからさ」
そう言って笑うラーシャを見て、自分の顔が馬鹿みたいに熱を持つのがよくわかり、恥ずかしさを誤魔化すように欄干に手を掛けて雪原の方に顔を向けた。
「セルジュは?寂しくなかった?」
何も気付いてないラーシャが無邪気に聞いて来る。
セルジュはギュッと目を閉じて、気持ちをなんとか落ちかせてやっとの思いでラーシャを見て頷いた。
「それは…まぁ…寂しかった、かな」
「だよね!今まで毎日顔を合わせてたのに急に会えなくなるとやっぱ寂しいよね」
「そうだな」
「よかった、セルジュも同じ気持ちで」
そう言ってラーシャは安堵してため息をついた。




