眠れない夜
初めての外の見回りをしてから七日経った昼勤務終わりの夜。
ベッドの中で何度も寝返りをうちながら、ラーシャは眠れずに小さくため息をついた。
隣の二段ベッドからは規則正しい寝息が聞こえてきて、二人がもうすでに夢の中にいる事は明確だ。
ラーシャは静かにため息をついて起きて、ベッドから降りた。
【どうした?ラーシャ、眠れないのか】
眠そうなルーキスの声にラーシャは、苦笑して頷いた。
「うん、だからちょっと散歩してこようかなって」
【…なら、俺も行く】
「いいよ、ルーキスは基本夜苦手でしょ」
【一人は危ないから一緒に行く。お前の子守りも俺の仕事の一つだ】
「何それ…まぁいいか。じゃあ一緒に行こうか」
宿舎の中を歩くのに寝巻きのままでは、恥ずかしいので団服に着替えるとそっと部屋から抜け出す。
廊下はやはり寒いので火の魔石を強くしてから、散策を始める。
ついて来てくれるとは言ってくれたものの眠そうに飛んでいたルーキスを抱き抱えてあげた。
「どこ行こうかな…?」
ラーシャはそう言ってすぐに、この宿舎が城壁の上に繋がっているのを思い出す。
少し夜風に当たってこようと、ラーシャは城壁の上に繋がる通路を目指すことにした。
夜も遅い事もあってか、誰にも会う事なく通路まで辿り着くと宿舎と城壁を繋ぐ連絡橋の扉を押し開けた。
「うっ…寒っ!」
扉を開いた瞬間、外気が一気に流れ込み身体が震え出す。
元々、外に出ようとなんて考えてなかったからケープも置いて来てしまった。
一瞬、違うところに行こうかとも思ったが、やはり城壁の上に行ってみたくて魔石の火力を上げで連絡橋を渡る。
連絡橋の上には、常に見張りのための騎士達が何人か在中していて、すれ違う度に頭を下げて挨拶をし、なるべく人が居なそうな場所を目指す。
「そんな薄着で外出たら風邪引くから早く中に入りなさいよ」
「はい!ありがとうございますっ!」
時々、そんな風に声を掛けられながらラーシャはようやく人が来なそうな場所に辿り着くと街の外を見たくて欄干に寄り掛かり外を眺める。
どこまでも広がる雪原を見ながらラーシャは、ほうっと息を吐き出す。
鼻や頬が寒さで赤くなりじんじんと痛むが、気にせずにただ薄暗い雪原を見つめた。
この広くて何も無い雪原で独りでひっそり死を待つ竜を見つけたのは、初めて外の見回りをした七日前。
体の至る所に氷柱が出来ていて、雪を溶かすほどの体温も無く、ミラが竜の死期がもう間近に迫っていると教えてくれた。
もう七日も経ったが、あの竜はまだ生きているのだろうか…。
あの日から竜の事が頭から離れない。
ずっとそんな事を考えていたせいで、今日は寝るタイミングを逃して眠れなくなってしまった。
あれ以来、あの竜の近くに見回りに行っていないから生きているのか死んでいるのかもわからない。
こんな寂しいところで死ぬなら、せめて最期は苦しまずに眠るように安らかに死んでほしいと思う。
「…ラーシャ?」
一人で感傷に浸っていると、不意に後ろから声を掛けられラーシャが驚いて振り返った。




