一縷の望みを託して
酷い頭痛でセルジュは硬い床の上で目を覚ました。
「…っ」
意識が覚醒すると、頭だけじゃなく腕も痛い。
傷だらけの腕は赤くパンパンに腫れ上がっていた。頭に触れれば手にはべっとり血がついた。
それを見て昨日何があったのかを思い出す。
「よく生きてたな…」
刺すような痛みが自分がまだ生きている事を実感させてくれる。
どうやらあの後、頭を酒瓶で殴られて気絶したセルジュをリライが二階にあるセルジュの部屋に鞄と共に投げ込んだらしい。
部屋の床に散らばる荷物をまとめないと…。
頭と腕の痛みを抑えて、何とか立ち上がり床に転がるノートを拾い上げようとして思い出す。今日は試験だからノートは必要ないのだと。なら、無理して拾う必要はないか…。
そう思った瞬間、ハッとしてセルジュは窓を見て、カーテンの隙間から光が差し込んでいるのを確認してドキリとした。
朝、試験、集合時間。
一気に顔を青ざめさせてセルジュは扉を開けようとしたが、開かない。鍵がかけられ扉が開かない。
「父さん!!開けて!」
腕の痛みなどお構いなしに扉をドンドン叩くが、扉は開く気配が無い。
このままだと、試験に参加することができない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう…!
ずっと扉を叩いてもリライに声が届いてるのか、届いていないのか。扉が開かれることはなかった。
頭を扉に押し当て、そのままその場に崩れ落ちる。
目からは涙が一筋流れ出し、それをきっかけに次から次へと涙が流れ落ちていく。
もうダメだ。ここから出られなければ、試験だって受けられない。今年はもう諦めるしか…。
扉から頭を離して、何気なく散らばっている鞄の中身を見ているとあるものが目に入った。
「これ…!」
それは昨日、フラウから渡された今日の試験で魔物に襲われたら吹くようにと渡された笛だった。
確か、魔法がかかっていてすごく大きな音が出るはずだ。これなら…!
“今度は私が助けるから!”
不意に昨日のラーシャの言葉が蘇る。
セルジュは立ち上がり、笛を掴むとカーテンを開け窓を開け放つ。
今まで助けを求めた事なんてなかったけど、でも今だけは…!今だけは…!
ラーシャに届け!!
セルジュは笛に口をつけた。
“ビィィィィィィィィィィィッ!!!!!!”
笛の高い音色が晴れ渡る空に、響き渡った。




