油断
ラーシャ達が目指しているのは、スノウコルド管轄地区にある岩が露出している山。
そこには、良質な氷の魔石が採れるのが有名で時々、命知らずの不届者が密猟しに来るらしい。
しかし気合を入れて挑んだ外の見回りは街とは違って変わり映えもなく正直言って思っていたよりも退屈だった。
雪原は見通しもよく、密猟者どころか魔物の姿も見えない。
飛行している魔物の姿も見えずに、ダメだとわかっていても気が緩んでしまう。
イヴァンがいなければ、今頃は通信石を使ってミラ達と雑談を始めていただろう。
話す事も出来ず、景色も変わり映えし無いうえに深夜勤という事もあってかなり眠い。
ラーシャはあくびを噛み殺して周りを盗み見ると、やはり眠そうに目を擦っている者がいて安心する。
その時、ナイラがビクッと身体を震わせて辺りをキョロキョロと視線を走らせる。
「どうした?ナイラ」
ベインがそう声を掛けると、ナイラは不思議そうに首を傾げた。
【いやぁ、魔物の気配を感じたんですけどねぇ。姿が見えねぇんですよねぇ】
聞こえて来たナイラの言葉にラーシャも気になって周りを見回すが何も無い。
その瞬間、身体にゾクッと寒さとは別の震えが走るのと同時に初日にコルネが入っていた事を思い出す。
“雪の中を移動する魔物がいてね。昔は雪の中に潜って街を下から襲ってきていたんだ”
雪の下…!
ラーシャはすぐに通信石に触れた。状況を説明する時間はない。
その場にいる全員を対象にして、ラーシャは叫んだ。
「キルディ!!今すぐに私たち全員の足元に障壁を展開して!!」
『はぁ?』
突然のラーシャの指示にキルディが不機嫌そうな声で反応するが、構っている暇も説明している暇もない。
「いいから早くっ!!!!」
ラーシャの怒声にキルディは、驚いて肩を震わせるとすぐにヴァルリアに指示を出す。
「ヴァルリア、下方部全面に障壁を築け!!」
【任せなさい】
ヴァルリアは一瞬で、障壁を築く。そして次の瞬間、雪の中から強大な芋虫型の魔物アイスワイムが飛び出した。
目が無く、口はかなり大きい。その巨大な口を広げてラーシャ達を捕食しようとしたがヴァルリアが出した障壁に防がれる。




