騎士らしい訓練
コルネはラーシャ達の息が整うのを待って、次から次へと訓練メニューを指示するが、そのどれもが基礎的なもので、地味なものだった。
基礎訓練が大切なのはわかってはいるが、はっきり言って拍子抜けである。
スノウコルドは命懸けの危険な土地だと聞いていたから、もっと厳しくて大変な訓練だと思っていたのに。
その事を食堂で昼食を取っている時に、ミラに愚痴ってみたら呆れた顔をされた。
「当たり前じゃない。初心者に最初からそんな命懸けの訓練させるわけないわ」
物凄く正論を言われてしまい、ラーシャはぐぅの音も出なかった。
しかし、午後も基礎訓練だと思っていたがそうではなかった。
「午後は身体の中の魔力を循環させる訓練を行うよ」
聞き慣れない訓練内容に受験生たちは、首を傾げた。
「他の国では当たり前の訓練なんだけど、竜の国では珍しいから聞いたことない人も多いよね」
コルネは頬を掻きながら、苦笑すると説明を始めた。
「僕たちの体内には魔力という力が流れているのは知ってるよね?他の国では、魔力を体内から出す時は能力変換されて外に出るんだ。火の国なら火に、水の国なら水ってね。僕たち竜の国の民は能力を変換する機能を持ってないから、体内から魔力を放出しても意味がない。だから魔石で能力に変換する必要がある…のは、流石に知ってるよね」
コルネの言葉に受験生たちは皆頷く。
魔力を能力に変換出来ないからこそ、竜の国は魔石の依存度も高く、故に魔石を用いた道具を作らせたら世界一である。
竜の国の民なら誰でも知っている当たり前の事だ。
「で、他の国は身体の中の魔力を一箇所に集めて強大な攻撃を繰り出せるように、魔力を身体の中で自由に操る訓練をするんだけど、今回はみんなにそれをやってもらうよ」
コルネの言葉にミラがまっすぐ手を伸ばした。
「ミラ、どうした?」
「あの、私たちは能力が無いのにどうして循環訓練を?」
「いい質問だね!僕たちが使う小銃は僕たちの魔力を銃弾に変換して射撃するよね。ここのダイヤルを回して魔力の出力を調整出来るようにはなってるんだけど、例えばダイヤルを最弱にすると十の魔力を一に制限出来る。十の魔力を込めたとして、一の魔力は銃弾として放出されて、残りの九の魔力はそのまま霧散してしまう。そうなると九の魔力が勿体無いだろ?だから、体内の魔力を自由に操れるように訓練をして、必要な分の魔力を小銃に込められるようにするんだ。そうする事で格段に魔力を温存できるし、撃てる弾数も増える」
ラーシャはコルネの話を聞きながら、なるほどと納得し、いよいよ騎士らしい訓練を受けられるとワクワクする。
「じゃあ、まずは自分の体内の魔力を感じ取るところから始めてみようか?目を閉じて、ゆっくり深呼吸しながらよく体内を探してみて」
ラーシャ達はコルネに言われるまま目を閉じて魔力を探し始めた。




