鬼神は戦場の幻想をみる
「私は騎士団志望だったから、出来れば戦場になれた竜と契約したくてね。森を彷徨っていたら、いつの間にか霧が出てきたの。そしたら、霧の奥から顔を真っ青にさせて学友たちが悲鳴を上げながらこっちに向かって走って来て…これはただごとじゃないって思ったわね」
ラーシャはゴクリと唾を飲み込む。ソル達が霧の向こうから悲鳴をあげて走ってきたら、きっと自分もその場から逃げ出してしまう。
でもきっと、おばあちゃんなら…。
「奥に進んだの?」
「もちろん」
にこやかに答えるシューリカ。やっぱり、とラーシャは頷いた。
「怖くなかったの?」
「あら、何故?見てもないのに怖がる必要はないでしょう?」
「さすが鬼神…俺たちと感覚が違うな」
ゼンが引き気味でそう言うと、シューリカは嬉しそうに笑う。
「ふふ、その呼び方懐かしいわね。それに騎士団に入るのだから、そんなことでいちいち怖がってられないわ。これから先もっと恐ろしいものと対峙しなければならないんだもの」
ラーシャとゼンは顔を見合わせて首を傾げた。
「二人にはまだわからないでしょうね」
シューリカは寂しそうに笑った後、さて、と言った。
「話の続きをしましょうか。…霧の奥に何があるのか、確かめたくて歩いていたら景色が変わったの。どこだかわからない荒野に曇天の空。…足元には無数の人や竜の死体や怪我人がたくさん転がってたわ」
「…白竜の幻を見せる能力か」
ゼンの言葉にシューリカは頷いた。
「そう、私もすぐにわかったわ。匂いがしないし、辺りには霧も立ち込めてる。間違いなく白竜の仕業だと気付いたの。…この光景はきっと白竜の記憶なのだ、と。これだけの戦場ならきっと昔、領地争いで竜の国と火の国が戦争をしていた時代のものなんじゃないかって思ったの。そう思ったら凄くドキドキしたわ。…そうだったらこの白竜は戦場に慣れている、私の理想の子だもの」
「それで、ハクレンと契約したの?」
「ええ。霧を抜けたところにハクレンがいてね。もし、戦場とか嫌ではなければ私と契約してくれませんか?ってお願いしたの。…ふふ、あの頃から無口な子だったけど私のお願いに快く了承してくれたのよ。…本当にいい子だわ」
そう言ってシューリカが愛おしそうにハクレンを撫でれば、ハクレンが気持ち良さそうに目を細める。
「もし、ハクレンが戦場を嫌がったら契約しなかった?」
ラーシャの質問にシューリカは首を傾げる。
「どうかしらね?今になってはパートナーが、ハクレン以外考えられないからわからないわね。ただ、パートナーがハクレンで良かったと思ってるわ」
「…やっぱり、おばあちゃんと、ハクレンは理想的なパートナーだね」
ラーシャは感嘆のため息をついた。そんな彼女の頭をゼンが軽く突っつく。
「俺とアイシャだって理想的だろ」
「うーん、理想的だけど出会い方がなぁ…」
「はぁ?」
【やっぱりパートナーにする相手間違えたかしら?】
「はぁぁぁ?俺だって最高のパートナーだろうがぁぁ!」
ゼンの叫びが家中に響き渡り、ラーシャはアイシャと共に声をあげて笑う。
どんな能力でもいい。こうやって友達みたいに素敵な関係を築ける子と契約できたらいいな。
「やっぱり大切なのはソルの言っていた通り“ノリ”なのかもね」