矢面
その時、突然背中を軽く叩かれてハッとしてラーシャは咄嗟に背中を伸ばす。
驚いて周りを見回すと、いつの間にか隣にセルジュが立っていて、こちらには見向きもせずに真っ直ぐミラを見つめていた。
「初めまして、ミラ。俺はセルジュ」
突然、セルジュは名乗ると肩に乗っているニクスを腕に乗せ替えてミラの前に差し出した。
「こいつは相棒のニクス。俺の竜も黒い虹霓竜なんだ」
“虹霓竜”だけをやたらと強調してセルジュが言うと、周りがざわめき出しミラとそしてラーシャまでもが目を丸くした。
そんなラーシャにようやくセルジュは視線を向けると優しく微笑む。
そこでラーシャは気づく。
セルジュはラーシャと一緒に矢面に立とうとしてくれているのだ。
セルジュの優しさに気づき嬉しくなってラーシャは思わず笑みが溢れた。
「ありがとう、セルジュ」
「お前一人で背負う必要はないだろ?」
心の内を読んだかのようなセルジュの言葉にラーシャは照れ臭そうに頷いた。
それを見てミラはにまにま笑いながら、あらまぁと呟いた後、咳払いをした。
「二人とも虹霓竜と契約してるだなんてすごいわね!!珍しい竜で凄いとは思うけど全然羨ましいとは思わないわね。私のシンシアの方が強くてすごいんだから。きっと周りのみんなも自分の相棒が一番だと思ってるはずよ」
そう言ってミラはこちらをジロジロ見ている輩を一瞥する。
「自分の竜が一番なのに、他人の竜を見てどうこう言う人がいる訳ないわよね?それこそ珍しい竜を見て嫉妬するだなんて、相棒の竜に対して失礼だものね」
ミラの言葉を聞いていた者たちは慌てて視線を逸らして、その場からさっさと離れて行く。
「全く、竜にもラーシャ達にも失礼な奴らね」
ミラが呆れたようにため息を吐くと、ラーシャが抱きついた。
「ありがとう、ミラ!」
「いいのよ。私が大声で虹霓竜だなんて言ったのが悪かったんだから…。それよりも」
ミラはラーシャを引き剥がして、セルジュの隣に立たせると二人の顔を交互に見てニヤッと笑う。
「え?何?二人とも付き合ってるの?」
「な…っ!?」
ミラの質問にセルジュが顔を真っ赤にさせるが、ラーシャは声を上げてケラケラ笑い出す。
「まっさか!付き合う訳ないじゃない!!セルジュに失礼よ?私なんかよりももっと可愛い子がいいに決まってるじゃん!ね?セルジュ?」
「…」
セルジュはふいっとラーシャから顔を逸らして何も答えない。
「セルジュ、どうしたの?」
「別に」
突然不機嫌そうな声を出すセルジュに困惑してラーシャが首を傾げる。
そんなラーシャを見て、ニクスがため息をついた。
【やれやれ…。これだから、ラーシャは】
「?」
よくわかっていないラーシャにさらにニクスがわざとらしく大きなため息をつく。
それを見ていたミラが状況を飲み込めて、頷いた。
「なるほど、そう言うことね。大変だと思うけど頑張って」
「…」
ミラの激励も無言で答えるセルジュ。
唯一、ラーシャだけが何もわかってないのでずっと首を傾げている。




