素敵なパートナーが欲しい
食後のデザートであるリンゴをシャクシャク音を立てながら食べていたラーシャは戯れているハクレンとアイシャを見て、大きなため息をついた。
「どうした?そんな大きなため息をついて。馬鹿っぽい顔がいつもの三割り増しでさらに馬鹿みたいな顔になってるぞ」
「なってない!」
竜帯の手入れをしていたゼンは作業する手を止めた。
竜帯とは竜の首に巻く魔物の皮出来た帯で、竜に騎乗する際、騎手が落ちないように命綱を繋ぐ大切な役割がある。
どんな人にも魔力があり、竜帯についた魔石に魔力を流すことで帯のサイズを自由に変える事が可能で竜が姿を変える際にもその魔力に反応して一緒にサイズを変える事が出来る優れ物。…と担任のフラウが自慢げに話していたのをラーシャは思い出す。
「で、どうしたんだ?」
「明日の契約…どんな竜にしたらいいのかわからなくて悩んでたの。ゼン兄はどうやってアイシャを選んだの?」
「どうやってって…俺も最初から青竜がいいとか決めてなかったな。ただ、契約してくれる竜を探してたら泉に出て、そこで水浴びをしてたアイシャを見てあまりの綺麗さに一目惚れして契約してもらった」
「アイシャの水浴びを覗きしたの?変態だ」
「は?変態じゃねーし」
「アイシャは女の子なんだよ?変態でしょ」
【そうよね?やっぱり水浴びを覗くのは変態よね?私もそう思うわ】
兄弟の話を聞きいてアイシャはクスクス笑いながら、ゼンの頭の上にちょこんと乗る。
【ほら、やっぱり変態だって言われたでしょ?】
「人間じゃねーし、竜なんかいつも全裸と一緒だろうが…いてっ」
デリカシーの“デ”の字もないゼンの発言に抗議するように頭に噛み付くアイシャ。
「今のはゼンが悪いのよ。アイシャに謝りなさい」
トレーに三人分のお茶が入ったカップを持ってきたシューリカに注意され、ゼンがアイシャに何度も謝る。それでようやくアイシャはゼンの頭を解放した。
「ごめんなさいね、デリカシーの無い孫で」
【いいえ、大丈夫ですよ。これからデリカシーというものを覚えさせていけばいいだけですから】
「まぁ!なんていい子なのかしら。安心してゼンを任せられるわ」
「いや、こえーよ」
【何針縫う傷を与えて欲しい?】
「…」
ゼンは黙り込んでリンゴを一口頬張る。それを見てシューリカは笑うと、テーブルに来たハクレンにリンゴを差し出す。
「ほら、お食べ」
スンスンと匂いを嗅いでからハクレンはシューリカの手からリンゴは食べる。その姿は竜ながら可愛い。
「やっぱり、パートナーにするなら二人みたいな関係になれる竜がいいな」
「素敵な関係になる為には竜と人間がお互いを尊重し合い、認め合い、理解し合わなければならないのよ。竜だけの問題じゃ無いの。ラーシャも努力が必要よ」
シューリカはそう言って微笑むとラーシャの頭を優しく撫でる。
「それさえ忘れなければきっと、どんな竜を選んでも素敵な関係になれるわ」
「うん!…ねぇ、おばあちゃんはハクレンとどうやって出会ったの?」
「あ、それ俺も知りたい」
「あらあら、話した事なかったかしら?」
シューリカはそう言って懐かしそうに目を細める。
「そんなに大した事のない出会いだったのよ。ねぇ、ハクレン」
ハクレンはシューリカに身体をくっつけると頷く。