死竜と竜玉
【死竜はね、スノウコルドにだけ存在する魔物なの。…魔物って言っていいのかわからないけどね】
アイシャはそう言ってため息をついた。
【竜の身体の中には、“竜玉”と呼ばれる魔石があるの。竜玉は私達竜の力の源なのよ】
「ルーキスにもあるの?」
【もちろん。ない奴はいない】
ラーシャは頷いて首を傾げた。
「その竜玉と死竜って何か関係があるってこと?」
【ある。スノウコルドはオレ達竜にとっては少し特別な場所でな。…大体の竜はその生の最期を迎える時はスノウコルドに向かうんだ】
「…どうして?」
【世界樹から生まれた金竜と銀竜がこの地に初めて降り立った場所が、スノウコルドだ。ここで金竜と銀竜は多くの竜を創り出した。だからオレ達は本能的に全ての始まりであるスノウコルドで終わりを迎えたいと願うんだ】
ルーキスの言葉にハクレンはゆっくり頷き、シューリカは寂しそうに微笑むとその頭を優しく撫でる。
ハクレンも自分の最期を感じるようになったらスノウコルドに向かうつもりなのだろう。
この話を聞くと、スノウコルドが少し寂しい場所のように感じられた。
「竜の最期の地、か」
ゼンがポツリと呟いてアイシャに視線を向けると、遺憾だとばかりにアイシャが目を吊り上げさせた。
【まだ、私は若いからスノウコルドに行こうだなんて思ってないわよ】
「わかってるよ」
【本当に?“お前も行くのか?”みたいな目で見てたでしょ?】
「悪かったって」
ゼンが苦笑しながら宥めると、アイシャは呆れたようにため息をついた。
【まぁ、いいわ。…それでね、スノウコルドで最期を迎えて身体が朽ちてくると中から竜玉が出てくるのよ。竜玉は一年くらいかしら?外気に触れ続けると、崩れてその魔力はこの世界の魔力に溶け込んで一つになって世界を巡り、やがて新たな竜となって産まれてくる】
【最後の部分は言い伝えだ】
【ロマンがあっていいじゃない。いちいち茶々を入れないで】
アイシャはそう言ってルーキスの頭を噛み始めた。
【痛い痛い!!姐さん痛い!】
痛がるルーキスを無視して尚も噛み続けるアイシャ。
「程々にしとけよ?…強大な力を持つ竜玉は人の手には余るし、竜達も竜玉に手を出せない。だから、竜玉は死体と共に朽ちるのが普通なんだ。ただ、スノウコルドは竜が死地に選ぶだけあってか、何故か怨念が集まる」
「怨念?」
「竜だけじゃなくて、魔物でも人間でもなんでも。今世に恨み辛み未練があって成仏できない…そんな怨念が竜玉の魔力に惹きつけられて集まってやがて死竜になる」
ハクレンがふうーっと机の上に霧を吐き出すと、そこに皮膚をボトボト腐り落としながら歩く、竜とは言えない竜が姿を表した。




