荷造り
お昼近くまでぐっすり眠ったラーシャは昼食後、ルーキスとシューリカに尻を叩かれながら必死に荷造りをした。
ラーシャたちの住むジルジはこれから夏に向けて暑くなっていくのだが、スノウコルドは万年冬。
しまったばかりの冬服を引っ張り出してカバンに詰めていく。
「ラーシャ、足と腰は絶対に冷やしちゃダメよ。寝る時は冷えるんだからもっとモコモコの靴下を持って行きなさい」
「モコモコしてると嵩張るんだよねぇ」
そう言いながらラーシャは、えいやっとカバンに無理やり押し込む。
普段は騎士団から支給された三着の団服を着回せばいいが、休暇の時の私服(休暇があると信じたい)と寝巻きが厚手のため思いの外、嵩張る。
「寝巻きの上に羽織るカーディガン置いて行こうかな?ソルたちがくれた魔石があるし」
ラーシャが胸に下げられたペンダントを指差すとシューリカは首を横に振って却下する。
「ダメダメ。そうやって油断してると風邪引くわよ?風邪ひいて試験落ちたら嫌でしょう」
「じゃあ持っていくよ…」
「そうなさい。それから、ラーシャ」
「ん?」
カーディガンを畳んでいた手を止めてラーシャが首を傾げる。
「どうしたの?」
「その魔石のペンダントは絶対に服の中に入れておくのよ。誰にも見られないようにね?」
「どうして?」
「その魔石は高級よりも上の最高級魔石でしょ?他の受験生達や騎士達に見られたら盗まれるかもしれないわよ」
「まさか、そんな…」
ラーシャは笑い飛ばそうとしたが、あまりにもシューリカが真剣なので、ラーシャも居住まいを正す。
「人間はみんないい人とは限らないのよ。簡単に手に入らない貴重な物があれば何がなんでも手に入れようとするのが人間の業。友達からもらった大切な物を盗まれるのは嫌でしょう?」
ラーシャは頷くと出していたペンダントを服の中に入れて、胸を張る」
「これでどう?」
「完璧だわ。…あとはこれを」
そう言ってシューリカは年季の入った焦茶色の手袋を差し出した。
「これは私が騎士団にいた頃に使ってた物なんだけれど、古いけどその分革は柔らかいから小銃の操作もしやすいし、暖かいのよ」
ルーキスも身を乗り出して手袋を見て感嘆の声を上げる。
【いい手袋じゃないか】
「あら、わかる?当時は高かったのよぉ」
ルーキスに褒められてシューリカは嬉しそうに笑う。
「ありがとう、おばあちゃん!大切に使うね!!」
試しに早速手袋を嵌めてみると、シューリカの言う通り革が柔らかくて手が動かしやすく、持って行こうと思っていたものより断然暖かい。
シューリカは古いと言っていたが、少し色が褪せた感じとかが味があって逆にカッコよく見えて、すぐにこの手袋を気に入った。
「忘れないようにもう入れとこ」
ある程度、荷物が詰め終わるとシューリカが夕飯を作るために立ち上がった。
「あとは大丈夫かしらね?何かあったら呼びなさいね」
そう言ってシューリカは部屋から出ていく。
「もう準備する物ないよね?」
ラーシャに尋ねられてルーキスも首を傾げた。
【何もないだろう。何も思い浮かばないから】
「だよね」
ラーシャは同意すると、ハンガーに掛けられた明日来て行く予定の団服に視線を移した。




