職人たちは竜選びに必死
ソルの家の食堂には、家族と弟子を合わせて十六人が大皿に乗ったエビフライを中心とした料理が並ぶテーブルの周りに座り静かに手を合わせる。
父であり家長であるゲオルグが口を開いた。
「竜の神よ。生きる糧を与えてくださり感謝申し上げます。貴方様のお陰で今日という日を良き日にすることができました。明日も今日と同じよう良き日になるよう、加護をお与えください」
それから竜の神に祈りを捧げ後、ゲオルグは目を開き手を叩く。
「ではいただこう!!」
その一言で一気に食堂は騒がしくなり、エビフライ争奪戦が始まった。
「おい!お前一気に五匹取っただろ!?」
「俺じゃねぇーよ!」
「バカ、早いもん勝ちだ!」
「「大人げがない!」」
皿からどんどん減って行くエビフライにソルも必死に手を伸ばす。
「明日は俺の試験だぞ!俺のために作られたエビフライなんだから少しは譲れぇぇぇっ!」
やっとの思いで取れたエビフライを口に咥えると、次のエビフライを取りに掛かる。
「やだやだ、食い意地がすごくて」
母親のフィアナの隣に座るシアはそう言ってエビフライを一口頬張る。
「お前、自分の分だけエビフライ別皿に避けてただろ。お前も同類だと思うぜ?」
「私は頭がいいからね!同類じゃないし!!…あ!ちょっと兄貴!!私の避けて置いたエビフライ食べないでよっ!」
シアの抗議を無視して妹の避けて置いたエビフライを食べるのはソルから十歳離れた長男のギル。
ギルは怒鳴るシアを無視して麦酒を片手に必死にエビフライを食べる弟の肩を掴んだ。
「おい、俺の可愛い弟」
「うへ、気持ち悪い事言うなよ、クソ兄貴」
ソルは食べていたエビフライを落としそうになりながら眉間にすごい皺を寄せる。
「そう言うなよ、お前はどんな竜にするんだ?やっぱ緑竜だよな!」
ギルの肩にちょこんと乗る緑竜、ルルドが胸を張る。
「兄貴も姉貴も緑竜だからやだ」
「そう言うなよ、ソル。同じ色の竜でも色合いは全く違う。ルルドは濃い緑だが、シアのレティは薄い。決して同じ色がないんだ。…てことでお前は中間色の色合い緑竜を…いて」
「弟に素材目的で竜を選ばせてるんじゃねぇ!!」
そう言ってギルの頭に拳を落としたのは、ゲオルグ。
「いいじゃねぇーか!鱗屋から買うと高くつくんだよ!コスト抑えるためにもソルには中間色の緑竜と契約した方がいいって!!」
「馬鹿野郎!どうせなら黄竜がいいだろ!俺のキルトの色合いよりも少し濃い目が理想だな…」
ゲオルグはそう言ってハッとした顔をして周りを見るとフィアナが冷ややかな目でこちらを見ていた。
「あ、いや…その」
「あらあら、アナタ。自分もギルの事言えないわよ?」
ニッコニコして言うフィアナにゲオルグはバツが悪そうな顔をした。
「鱗屋は高いから…」
その一言で弟子たちが騒ぎ出し、ソルに自分の竜と色が合う竜と契約する様に言い出す。
皆に揉みくちゃにされながら、ソルは絶対に自分の竜がここにいる弟子たちの素材にされないようにしようと心に誓う。