渡すもの
この一ヶ月本当に休みなくラーシャ達は、昼は騎士団の訓練、夜はゼンの訓練を受け続けた。
昼も夜も訓練の内容はどんどんハードになって行き、小銃の扱いはもちろん剣技も叩き込まれ、もはやこれは騎士団にこのまま入団しても差し支えが無いのでは?と思える程の過酷な訓練を乗り越えてやっと今日、最終日を迎えた。
「諸君、約一ヶ月ご苦労様。明日はゆっくり休んで明後日の朝、またここに集合するように」
フリーラの挨拶でようやく訓練が終わり、ラーシャはホッと肩の力を抜く。
「皆さん、お疲れ様ですわ」
最後の訓練を終わるのを待っていたニア達がラーシャ達に駆け寄って来た。
「ありがとう。なんかニア達がすごく久しぶりに感じる」
「実際、合格発表振りですのでお久しぶりでふすわね」
ラーシャとニアが手を合わせて再会を喜び合う。
「俺、この後フォルテ達と待ち合わせしてるから先に帰るな」
「私も帰るねー!また明後日」
帰ろうとするベインとロベリエを慌ててソルが引き止めた。
「ちょっと待って!二人に渡すものがあるんだっ!すぐ済むから!!」
ベインとロベリエは顔を見合わせて首を傾げた。
「実は皆さんにこれを渡したくて」
そう言って、ニアはソルと目を合わせて頷き合うとポケットから火の魔石のペンダントを四本取り出した。
魔石は色が濃ければ濃いほど、その秘められた魔力は強大で高級とされる。
しかもこの火の魔石は真紅。おまけに中にオレンジ色の光が揺らめいている。
これ絶対高いやつだ…!
ラーシャは生唾を飲んで震える手でペンダントに手を伸ばす。
「こ、これってまさか…「うわー!すごい!!これ高級魔石じゃない?」
ラーシャよりも先に貰っていたロベリエが驚きの声を上げる。
「こ、高級魔石…!!俺初めて見た!」
ベインは驚きながら、火の魔石を太陽に透かしてしげしげと魔石を見る。
「こんな高価なものさすがに貰えない」
セルジュが困ったように言う横で、ラーシャも必死でコクコク頷く。
すると、ベルナデッタがセルジュの前に顔を寄せる。
【心配せずともよい。魔石は余が直々に取ってきたものだ】
「許可なしは泥棒だぜ?」
「大丈夫ですわ、ベイン。ちゃんと許可をお持ちの方と共に取ってきましたから。この魔石はベルナデッタが大きな魔石を取った報酬として頂いたものですので、お金もかかっておりませんわ」
【その通りだ。余達からの気持ちゆえ、素直に受け取るがよい】
それを聞いてラーシャは安心すると、ペンダントを受け取る。
相場を聞いたら安心できない気がするから、絶対に聞かないけど。
「この魔石を握って魔力を少し流せば自分の好みに合わせて暖かくなるから、自分で温度調節してくれ」
「へー…うわっ、暑っ!!これ石だけじゃなくて身体全体が暖かくなってすげーな!」
慌てて魔石に魔力を流し直し、発動を止めるとベインは嬉しそうに首に下げた。
「これなら、スノウコルドでも寒さに震えなくて済みそうだな」
「これ、私も貰っちゃっていいの?」
ロベリエの言葉にソルが頷いた。
「もちろん、同郷のよしみだ。皆んなには無事に帰って来て欲しいしな」
「そ?じゃあ、ありがたく。本当にありがとうね」
嬉しそうに笑いながら、ロベリエはそう言ってセツに乗って帰って行った。
その後、ベインもお礼を言ってナイラと共に帰って行く。
「俺たちも帰るか」
「そうだね」
セルジュの言葉にラーシャも同意すると、ソルとニアが前に立ちはだかる。
「セルジュとラーシャはまだ、帰っちゃダメだ」
「そうですわ!まだお二人には渡すものがあるんですのよ!」
ラーシャとセルジュは顔を見合せると、首を傾げた。




