全部夕日のせい
夕日に照らされた黒髪の少年の姿を見てすぐにセルジュだと気づいた。
「セルジュ!こんなところでどうしたの?」
日も落ちてきてかなり冷え込んできているというのに先に帰ったはずのセルジュは、ずっとここで待っていたのだろうか。彼の鼻と頬は真っ赤になっていた。
「ほっぺがこんなに冷たくなってる。ずっとここにいたの?」
自分の両頬を手で包み込むように触れて首を傾げるラーシャにセルジュは眉間に皺を寄せた。
「…なんで」
掠れた小さな声でよく聞こえずに、えっ、と聞き返す。
「なんで助けた?」
素っ気ないその言葉にラーシャはじっとセルジュを見返した。
父親のリライが五年前から変わってしまったように、セルジュも変わってしまった。どんなに辛い事があっても全部、一人で背負ってしまうようになっ
た。
色んな人が助け出そうと手を差し伸べてもその手を振り払ってしまう。
そんな彼を見ていると悲しくなる。
だから助けずにはいられない。
「おい」
「ん?何?」
「いつまで触ってる気だ」
「あ…」
ラーシャはセルジュの頬から手を放す。
「少しは暖かくなった?」
「別に。…質問」
セルジュに催促されてラーシャは困ったように頬を掻く。
「フォルテのあの言葉とか態度見てたらイライラしてきちゃって、つい鞄を投げちゃった」
セルジュが辛そうで見ていられなかった。なんて本当のことを言ったらきっと、セルジュは怒るから。
「助けたんじゃなくて、私が嫌だったの」
「…そうか。でも、今度から何もしなくてもいい」
どうやらセルジュには嘘がバレてしまったようだった。ラーシャは肩をすくめると、わかった、と頷いた。それを見て、セルジュは帰ろうとラーシャに背を向ける。
「でも」
「?」
少し歩いたところでラーシャに声をかけられセルジュが立ち止まる。
「フォルテに殴られそうになった私を助けようとしてくれたから」
ラーシャが少し照れ臭そうに笑みを浮かべた。
「今度は私がセルジュを助けるね。ありがとう」
「…!」
バッとラーシャから勢いよく顔を逸らすと、セルジュは走り出す。
後ろからラーシャが何か言っているが、気にしない。
顔が熱い…。顔が赤い気もしたけど、全部夕日のせいだ。
セルジュは自分にそう言い聞かせて、父親のいる家へと帰る。