名案
結局セルジュが耐えられたのは二分だった。
最後は砂に足を取られた瞬間に脇腹に命中し、その場に崩れ落ちた。
「お疲れー」
「結構長く避けてたな」
先に撃たれて横たわっていたラーシャ達から労いの言葉を掛けられるが、片手を上げて答えるのが精一杯だった。
「ほらー、寝てんなよー。次行くぞ」
容赦のないゼンにイラッとしながらもラーシャがゆっくり立ち上がった。
「二人は寝てて。ここは一人ずつ交互に挑みに行こう。時間を稼いで体力の回復をするよ」
二人は目を見開いてラーシャを見つめた。
「お前ってもしかして天才?」
「ラーシャが五分逃げ切って、ベインが二十分逃げ切れば二十五分は休めるな」
「計算おかしくないか?」
「?」
真剣な顔で首を傾げるセルジュにベインはため息をついて、何でもねぇ、と呟いた。
「とにかく!私が先にやる!!ゼン兄!勝負!!!」
「いい度胸だ!ラーシャ!!」
ゼンは嬉しそうに笑って銃口をラーシャに向けると迷う事なく引き金を引く。
ラーシャはセルジュの教えを胸に放たれた銃弾をよく見てどこに避けるべきかを、冷静に見極める。
そしてー。
「ぎゃー!!!」
秒で撃たれてその場に倒れた。
「時間稼ぎにもなってねぇな」
「うるさい。マジでうるさい。ベインがやってよ」
不貞腐れるラーシャを無視してベインは立ち上がると深呼吸をする。
セルジュと同じように…とまでは行かなくてもせめてラーシャよりも長く逃げたい。
「お願いしますっ!」
腹に力を込めてベインが叫ぶ。
それに呼応するかのように鳴り響く銃声とベインの悲鳴。
砂浜にうつ伏せで倒れてベインが呻く。
「ごめん。本当にごめん。ラーシャは悪くなかったわ。セルジュが異常なだけだったわ」
「いいよ、わかってくれて嬉しいよ…」
「…?俺もしかして貶されてるのか?」
そんなやりとりを繰り返しながらゼンの訓練は続けられ、一時間後には誰一人として動けずにその場に倒れ込んでいる。
「まぁ、初日だからこんなもんなだな。お疲れ様」
ゼンの言葉にもラーシャ達は何も返す事が出来ずに凄まじい疲労感に耐えていた。
「今日は早く寝て風呂に入ったらよくマッサージしろよ?明日なんて今日の比じゃないくらいきついんだからな」
「今日の…」
「比じゃないくらい」
「キツイ?」
三人はゼンの言葉を絶望を滲ませながらおうむ返しで繰り返す。
【ただいまー、ゼン!】
その時、上空からアイシャの声が聞こえゼンは上を見て手を振る。
【おかえり、アイシャ…って、お前らすごいボロボロだな!?大丈夫か!?】




