大切なのはその場のノリ
「そんなことないよ!参考になった!…ただ…」
「?」
「みんなちゃんと、自分に合った竜選びしててすごいなぁーって」
ずっと、漠然と竜と世界中を回りたいと思ってた。だけど、竜と契約出来る日が近くなって来ると、どんな竜と契約すればいいのかわからなくなってきた。
もう試験は明日なのに。候補が全く絞ることができない。
「竜使いのお父様とお母様はどんな竜と契約なさっているんですの?」
「パパは白緑竜でママは橙竜だよ」
白緑竜は氷を、橙竜は治癒の力を扱う竜だ。
「お二方を参考にするのは?」
「それも考えたんだけど、せっかく世界を回るなら他の国の人に竜の種類はたくさんいるのを知って欲しいから、パパとママ以外の竜にしようと思う」
「お前の親以外にも竜使いはいるだろ?一人と被ったところで…」
「いいの!これ以上選択肢増やさないで!せっかくそう思って絞ったんだから!」
白緑竜や緑竜だって捨てがたいが、なんとか候補から外して常に家にいる二匹の竜にまで絞ることが出来たのだ。これ以上気持ちを揺さぶられたら、本当に迷いすぎて竜と契約出来ない。
「全く、優柔不断だな」
「ソルだって一匹には絞れてないでしょ?」
ブスッとするラーシャにソルは笑いながら頷く。
「まぁな。…俺の場合はある程度決めてるけど、後はその場のノリだと思う」
「「ノリ?」」
ラーシャとニアが同時に聞き返す。
「あぁ。結局、どんな竜がいいか決めてても目の前で実際にあって竜と話してみて“この竜だ!”って思えば探してた竜と違っても契約するだろ?だからその場のノリが大切だと思うぜ?」
「なるほど…ノリか」
確かに、ソルの言っている事は一理あるかもしれない。結局は明日になってみないとどんな竜と契約するかなんてわからないのだ。
今から難しく考えてないで、竜と自分の気持ちが一致した子と契約すればいい。
「でも、そういう子を見つけるのが難しそうだけどね…」
ラーシャはそう言って日が傾き始めた太陽に視線を向ける。
すると、目の前に、緑竜に乗った赤銅色の髪を夕陽の光で真っ赤に染めた少女が現れた。
「あ…」
ラーシャが気づくのと同時に顔を真っ青にさせたソルが慌てて立ち上がったせいで、椅子が音を立てて倒れた。
「姉貴!!」
ソルの二つ離れた真ん中の姉であるシアが微笑んでこちらに向かって手を振ると、窓を開けるようにジェスチャーする。
ラーシャが窓を開けようと立ち上がると、その腕をソルに掴まれた。
「行くな!開けちゃダメだ!」
「えっ、でも…」
「頼む!」
ソルの必死の懇願も虚しくニアが、お待ちくださいね、と言って窓を開けてしまった。
「うわぁぁぁぁっ!ニアぁぁぁ!!」