ロアン
フォルテは家の前でラソから降りると、小さくなったラソを肩に乗せて家の中に入ったが、両親はもちろん、使用人でさえ出迎える者はいない。
卒業式にも関わらず誰も参加などしないのだ。
出迎えなどあるはずがない。そもそも存在しない者を出迎える必要もないのだ。
フォルテはギュッと拳を握りしめ、唇を噛み締めた。
竜の国一を誇る麒麟商会の娘であるニアでさえ、母親が来ていたのに。
父親に虐待されていたセルジュでさえ、ソルの両親から家族だと受け入れ、卒業を祝福されていたのに。
【フォルテ?】
不意にラソに声をかけられフォルテは我に返った。
「どうした?」
【フォルテ、顔が怖いからどうしたのかなって】
「大丈夫だ。ちょっと考え事してただけだ」
【ふぅん?…今日楽しかったね】
ラソの言葉にフォルテは家に帰って来て初めて笑顔を見せた。
「そうだな」
いつものメンバーである、ベイン、ダルテ、シーラの四人とそれぞれの竜で卒業の打ち上げをしたのだが、それがすごく楽しかった。
もっとたくさんこうやってみんなと飯を食いに行っていればよかったと後悔してしまうほどに。
ずっと一緒にいたのは、自分が[玉葉]の息子で見返りがあるからだと思っていたのに実際は違った。
全員ちゃんとやりたい事があって、それぞれ夢に向かって進んでいた。
フォルテに見返りなど求めてなかったのだ。
それに気づけたのが卒業間際だったのが悔やまれた。
「みんないい奴だよな…」
フォルテは少し寂しそうな声で呟いた。
「兄様」
後ろから声をかけられフォルテはビクッと肩を震わせて立ち止まり、振り返る。
そこにいたのは、人好きのする笑顔を浮かべたフォルテの一つ年下の弟であり[玉葉]の後継者であるロアンだった。
「兄様、今日卒業式だったんですよね?ご卒業おめでとうございます」
「…」
フォルテが無言でロアンを見つめ返していると、ロアンは困ったように笑った。
「せっかく“おめでとう”を言っているのにどうして、そんなに怖い顔で見て来るんです?」
ロアンが話しかけて来るなんて実に一ヶ月ぶりだ。何か企んでいるに違いない。
「酷い兄様だ。…ねぇ、グリス」
【ええ、せっかくロアンが声を掛けてやってるのに本当に酷い。少し懲らしめてやりましょう】
グリスと呼ばれた白竜はそう言うと、フゥーッとフォルテに向かって白い息を吐き出した。
すると、フォルテを白い霧が包み込み目の前に両親が現れた。




