生涯を共にする竜に想いを馳せる
騒ぎも終わり、他の教室に残っていた生徒たちも帰って行く。
「どうしますか?私たちも帰ります?」
「うーん…」
ニアの質問にソルが言葉を濁して、適当に近くの席に座った。
「あれ?まだ帰りたくないの?」
「今帰るとなぁ…」
そう言って机に突っ伏すソルの様子を見て、ラーシャはすぐに状況を察して笑う。
「なるほど、今帰ると手伝いをさせられるのね」
ソルの家は竜の国でも一、二位を争う竜の鱗で装飾品を作るの職人の家系で弟子を十一人抱え敷地内に住まわせている。
三人兄弟の末っ子であり、弟子の中でも一番若いが故に家に帰れば工房の雑用から母親の家事の手伝い全般をしなければならない。少しでも帰るのを遅らせて、手伝いを免れたい魂胆だ。
ニアもそれに気がつき笑う。
「時間を稼ぎたいわけですわね」
「ん、まぁ…そう言うこと。工房の雑用とか手伝いとか嫌じゃないけど、今日くらいは免除して欲しい」
「まぁ、今日はそんな気分じゃないよね。なんか気持ちがソワソワしてそれどころじゃないもん」
ラーシャは頷いて近くの椅子に座り、それに倣ってニアも座る。
「では、もう少し話して行きましょうか」
「悪いな」
「私ももう少し二人と話したかったし、ちょうどいいよ!…ねぇ、二人はどんな竜と契約したい?」
その質問に真っ先に答えたのはニア。両手を胸の前で組み、うっとりと宙を見つめる。
「私は黄竜ですわね。…雷を扱う竜ですから。あの雷撃を放つ時の身体の芯に響く音と空気の震え…。あぁ、想像しただけでドキドキしてしまいますわぁ…」
完全に自分の世界に入ってしまったニアに残された二人は顔を見合わせる。
ニアのちょっとヤバい扉を開いてしまったのかもしれない。とりあえず、ニアから話を逸らそう。
ラーシャは笑顔が引きつらないよう気をつけ頷いく。
「そ、そっか…。確かに雷っていいよね。うん。…そ、ソルは?」
「俺?俺は…そうだなぁ。鱗が綺麗な竜がいいな。下っ端だと練習用の鱗もなかなか貰えないから、自分の竜だったら鱗も好きに使えるしな。…白竜とか赤竜は色いいよな。黒竜も捨てがたい」
「ソルはさすがですわね。職人目線で竜をお選びになるのですね」
自分の世界から戻ってきたニアは感心したように言う。
「兄貴達や兄弟子達はみんなそうやって素材を集めてるのを見てたからな。それに鱗って結構高いんだよ。練習用になんかとてもじゃ無いけど使えないんだよなぁ」
腕を組んでソルは眉間に皺を寄せ十歳とは思えない顔でため息をつく。そんなソルにラーシャは思わず吹き出した。
「ふふ、その顔、ソルのお父さんそっくり!」
「はぁ?んなわけねーだろ!あんな、息が詰まりそうな気難しい顔出来ないって!」
顔を赤くしてそう言うソルにラーシャはさらに笑い声を上げる。
あんな悪態を付いているが、本当は尊敬している父に似てると言われて嬉しいのが手に取るようにわかる。だから、余計に面白い。
「そ、そう言うラーシャは?どんな竜がいいんだよ?」
無理矢理話を逸らすソルに今度はラーシャが困る番だった。
「んー…まだ、わかんないんだよねぇ」
「意外ですわね。竜使いになりたいといつも仰っていたから、もう決めてるのかと思いましたわ」
「おばあちゃんみたいな白竜もいいなって思うし、ゼン兄みたいな青竜もいいなって思う」
白竜は白い霧を吐き出し幻を見せる。青竜なら、水を扱う。世界を周るなら攻撃性に優れたものもいいと思うし、幻を見せて逃げるのも手だと思う。
「どんな能力が竜使いに向いてるのかわからないんだよね…。だから、二人に聞いてみたんだけど」
「全く参考にならなかったってわけか」
ソルの言葉にラーシャは慌てて首を横に振る。